家にいよう。特別企画 クラブ・スバリズム歴史発掘!技術的偉業10選 第3弾「ポルシェ 956/962」 [2020年04月22日更新]
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美しくシンプルで無駄のないパッケージング。
このマシンの白眉は、美しく洗練されたパッケージングにあります。すべてのコンポーネントが左右対称に存在し、まったく無駄がなく、極めてロジカルにデザインされていたのです。スポーツカーレーシングは、耐久レースがメイン。信頼性と共に、整備性にも配慮されていたのです。
1982年6月19日、ルマンをリードする3台のワークス956は、燃費をキープすべく過給圧を1.1barまで落として周回を重ねていきます。そして翌20日、3台はカーナンバー順にチェッカーを受け、1-2-3フィニッシュを飾ります。956の伝説はこの時から始まるのです。
初期のターボエンジンでは、燃料冷却を常用していたため、その燃費は劣悪なものでした。熱効率と出力を高めるには、過給圧と圧縮比を高めねばなりません。すると、異常燃焼の可能性が高まります。そこで、燃料を過剰噴射し、その気化潜熱で燃焼室の冷却を行っていたのです。しかし、グループCでは燃費は最優先。燃料冷却をせずに、高出力を実現せねばなりません。そのカギとなったのが、エンジンの電子制御技術でした。
ディーラーで購入可能なレーシングカー。
プライベータ956は、世界のレースを席巻した。Aj 1986 at the English Wikipedia / CC BY-SA
1982年後半、ワークスは電子制御化した935/77を実戦投入します。最終的に圧縮比は8.0:1まで高められ、10%の燃費向上を実現していました。
1983年、遂にポルシェは956の市販を開始します。ただ、プライベータ向け956は、信頼性と技術的難易度を考慮して、機械式インジェクションの935/76へスペックダウン。それでも、プライベータの956は恐ろしい強さを発揮します。956は、エンジンを中心に進化を遂げつつ、世界中のレースを席巻。ポッと出のワークスなぞ、彼らの敵ではありませんでした。
ポルシェは、米国IMSA-GTP規定に合わせた962をデリバリー開始。FISAも追随して規定を合わせたため、956も962Cへ進化を果たします。そして、再び勝利を重ねてくのです。
956/962が最も恐ろしいのは、「誰でも買えた」ことです。当時の価格で6500万円程。ポルシェディーラーで注文すれば、キーと説明書付で納車されました。そして、各パーツには純正品番があり、これもまたディーラーで普通に注文可能だったのです。
未来永劫色褪せないポルシェ956/962の偉業。
TWRジャガー、ザウバー・メルセデス、トヨタ、日産、マツダ。彼らは、全力でポルシェ打倒を目指します。当面の敵は歴戦のプライベータ。それでも、牙城を崩すことはできません。1988年のルマン、TWRジャガーは5台ものワークスカーを投入。対するポルシェは3台のワークス962Cで迎え撃ちます。両者は伝説的な死闘を繰り広げ、漸く悲願は達成されたのです。
プライベータポルシェ打倒を期して、トヨタ、日産は潤沢な予算を投じます。しかし、それを果たすには更に2年もの歳月が必要でした。
以降も、962Cの歴史は続いていきます。1994年には、隠れワークスのダウアー962LMが突如ルマンに現れ、非難轟々の中で優勝。改造されたマシンは1995年頃まで現役でレースを続けていくのです。
シンプルかつロジカル。だからこそ、956/962はワークス、プライベータを問わず、活躍を続けることができたのです。モータスポーツ界に燦然と輝くその偉業は、未来永劫色褪せることは無いでしょう。