水平対向エンジンは、良き伝統か。はたまた、悪しき呪縛か。 [2020年09月04日更新]
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初代インプレッサは、当初直列4気筒を搭載するはずだった。
実際、スバルは水平対向エンジンからの脱却を図っています。最大のチャンスは、1988年。当時、レガシィの下に位置する小型車開発計画を進めていたスバルは、1600cc直列4気筒を横置きとした試作車を試作。試験走行を実施し、開発は既に終盤に差し掛かっていました。ところが、プラザ合意をキッカケとした急激な円高がスバルを襲います。経営陣は、直列4気筒新規開発案を棄却し、レガシィ用水平対向エンジンの流用を厳命します。
この決定を聞かされたエンジニア達は、猛然と反発します。果ては、出社拒否に至る者さえいたと言います。彼らが憂いたのは、他社との技術面での融通が損なわれ、最新技術の導入が遅れることでした。スバルの未来を心底案じたからこそ、水平対向からの脱却にこそ未来があると信じたのです。
こうした顛末の末に誕生したのが、初代インプレッサです。経営危機が無ければ、インプレッサは直列4気筒を搭載していたかも知れなかったのです。これを最後に、スバルが水平対向から脱却するチャンスは永遠に失われます。1990年代後半のWRCでの成功が、水平対向エンジンに新たなブランド価値を与え、脱却するメリットを失わせてしまったからです。
そして、当時のエンジニア達が懸念したネガは、いよいよ現実のものとなりつつあります。燃費改善及び電動化が進まないのは、駆動系がすべて専用設計となるため、自主開発とせねばならないからです。
水平対向の呪縛と、CAFE規制というスバル最大の危機。
今、スバルが直面する最大の課題が、CAFE規制対策です。各メーカーの全販売車両のWLTC燃費値を積算し、これを販売台数で除する。こうして算出される平均燃費値に対して規制をかけるのが、CAFE規制の概要です。
スバルはCAFE規制に際し、最も厳しい立場に置かれています。ラインナップがCセグメント以上に限られるうえ、販売の全体ボリュームが少ないがために、ハイパフォーマンスモデルの販売比率が高い、という三重苦に直面しているのです。この苦境を打開するには、ハイパフォーマンスモデルの販売を絞りつつ、燃費性能に優れたエントリーモデルを数多く販売していかねばなりません。CAFE規制に対しては、PHVやBEVのような高額低燃費モデルは販売台数が限られるため、有効打とはなり得ないのです。
現代ガソリンエンジン技術では、燃焼効率・冷却損失等々の観点から1シリンダー500cc程度が最適解とされているため、1.5Lクラスでは直列3気筒が主流です。ところが、スバルには水平対向以外の選択肢がないため、3気筒化が不可能。そこで、スバルは1.5L水平対向4気筒直噴リーンバーンターボを開発、2.0LNAユニットを置き換える計画です。この排気量で4気筒となれば、熱効率で相当不利なはずですが、それを承知で4気筒とせざるを得ないのです。
ただ、スバルにはエントリー用の1.6LNAユニットも存在しています。これを置き換えるには、上記新開発エンジンのNA版が適当でしょうが、効率に劣る1.5L4気筒NAで充分な燃費値を実現するのは、相当困難でしょう。
これらを鑑みるに、水平対向エンジンは良き伝統ではなく、明らかに呪縛と化しているように見えます。それは、CAFE規制対策(すなわち、スバルの未来)に対する、大きなリスクです。
水平対向の呪縛から脱するとき、改めて問われる「スバルらしさ」とは。
スバルは水平対向エンジンの呪縛から、そろそろ抜け出すべき時期に来ています。ただ、今さら直列3気筒エンジンをゼロから新規開発するのは、得策ではありません。となれば、外部調達を図る以外に無いでしょう。現在、スバルはCセグメント以下のラインナップを、ダイハツ製OEM車両で補っています。ただ、スバルはその販売にずっと苦戦を続けています。OEM車が、余りにスバルらしくないからです。
一方で、Bセグメント以下のの販売台数を全体の30%近くまで増やすことができれば、CAFE規制クリアは相当にラクになるはずです。つまり、スバルの未来は、Bセグメント以下の販売を何処まで増やせるか、に掛かっています。
もし、この状況を打開するとすれば、単なる「バッジ違い」ではなく、より「スバルらしいモデルとして作り直す」覚悟が必要でしょう。つまり、単なるOEM車ではなく、共同開発車としてそれらを投入すべきです。
この段階で、スバルのエンジニア達は悩むことになるでしょう。「何を以て、スバルとすべきか?」と。これこそが、本当に恐れるべき、水平対向の呪縛です。ここ数年、スバルは水平対向エンジンを軸に、スバルブランドを演出してきました。意地悪に言えば、何を考えずとも水平対向であれば、スバルブランドは常に「それらしく」あったのです。それが当たり前となってしまうと、人は思考停止に陥ってしまうのです。
そのヒントは、かつてのスバル製軽自動車の数々にあります。サンバー、R1/R2、VIVIO等々、それらは個性に溢れていました。水平対向エンジン搭載車とは全く違った、別の「スバルらしさ」を備えていたのです。他社製プラットフォームを活用した、水平対向エンジンではない、個性あふれるスバル車。それこそが、CAFE規制に対する、本当の決定打となるはずです。
CAFE規制クリアの最短経路は、Bセグメント以下の拡販。
ただ、スバルが水平対向の伝統にこだわり、これを固持するのであれば、CAFE規制のクリアは相当困難なものとなるでしょう。
もし、Bセグメント以下を計算に入れずに平均燃費値を稼ぐのであれば、ハイブリッドやPHV、BEVなど「飛び道具」に頼らざるを得ません。当然、車両価格は上昇しますから、ブランド全体の高価格化が進行します。所得分布から明らかなように、高価格化によって利益率は改善されるものの、販売ボリュームは小さくなります。一方で、一定数のスバルファンは常にハイパフォーマンスモデルを求めますから、相対的に「低」燃費モデルの販売割合が増加してしまいます。懸案の解決どころか、状況はさらに悪化する事態が想像されます。
理想を述べるのならば、Bセグメント以下の販売台数を相対的に増やして平均燃費値を改善し、CAFE規制を余裕を以てクリア。その余裕を活かして、より刺激的なハイパフォーマンスモデルの投入するのが良いでしょう。ハイパフォーマンスモデルは、技術的象徴たる水平対向エンジンを搭載するため、スバル本来のイメージをより強く訴求し、ブランド個性はより鮮明にします。そして、その強いブランドイメージがスバルブランドをより良く際立たせ、Bセグメント以下の販売を牽引していくはずです。
水平対向エンジンに内製トランスミッション。すべてが、スバルオリジナル。それは、確かに理想かも知れません。しかし、だからこそスバルのラインナップが狭まっているのも事実です。良き伝統たる水平対向エンジンですが、「水平対向にあらずんば、スバルにあらず。」としてしまったからこそ、自らの可能性をも狭めてしまったのです。
こうした諸処の事情を鑑みる限り、水平対向は良き伝統ではなく悪しき呪縛と化し、自らの未来を狭隘なものにしてしまっているのは間違いないでしょう。一日も早くその呪縛から逃れ、新たな良き伝統を作らんことを願うばかりです。