2代目BRZ試乗車到着記念企画第3弾〜メカニズム徹底解説シャシー&サスペンション編〜 [2021年09月18日更新]
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剛性向上に歩みを合わせ、各部の徹底補強で2020年代に相応しい衝突安全性能を実現。。
ZD型開発に際して難題となったのが、10年以上前に設計されたプラットフォームで、スバルブランドに相応しい安全性能を実現することでした。
スバルは、2030年死亡交通事故ゼロを掲げ、世界最高峰の安全性能を追求することを公約としています。スバルの掲げる安全性能は、広い視界とシンプルな操作系でインシデントの発生を抑止する「0次安全」、高い走行安定性と操縦性により危険回避を可能にする「走行安全」、アイサイトを中心に事故の回避を目指す「予防安全」、衝突時に乗員及び歩行者の生命を確保する「衝突安全」の4つです。
そこで、ZD型ではAT仕様に初めてアイサイトを搭載。また、ダッシュボード高さを抑えることで、視界の確保を図っています。
ただ、衝突安全だけは付け焼き刃的な対応では、改善不可能です。本来なら、強靭な骨格が不可欠です。しかし、それではプラットフォームを刷新せねばなりません。一方で、フルモデルチェンジを実現するには、開発コストの低減は絶対条件でした。車両価格が無闇に上昇すれば、プレミアムクーペになってしまうからです。
そこで、スバルは剛性向上と歩調を合わせ、衝突安全性強化を図ることとしました。衝突安全性能で鍵を握るのが、Aピラー及びバルクヘッド周辺の構造です。
ZD型では、SGPでの知見をフル活用。Aピラー基部を前方に延長しつつ、この周辺構造を徹底強化。さらに衝撃吸収部材を追加しつつ、衝突荷重の伝達性を改善することで、高い前面衝突に対する安全性能を確保しています。また、側面衝突対応として、インナーフレーム構造採用による強度向上に加え、ドアパネル及びA〜Bピラー周辺にホットプレス材を多用。重量増を最低限としつつ、衝突安全性能を向上させています。
変更は最小限。徹底した走り込みと、徹底したこだわりにより、ピュアスポーツとして更に進化。
サスペンションは、フロントにマクファーソン・ストラット、リヤにダブルウィッシュボーン。前後共に大掛かりな変更は行われておらず、基本的にZC型からのキャリーオーバー。ただ、エンジン出力増大に伴う各部の剛性向上、ハンドリング精度向上のための各部のブラッシュアップが行われています。特に、サブフレームはエンジントルク増大に対応した強化が図られており、外観上の違いは少ないものの、徹底した走り込みによって、2020年代のピュアスポーツに相応しいポテンシャルが与えられています。
フロントサスペンションで話題となっているのが、3kgの軽量化を達成したフロントアクスルハウジング。BRZのみ採用されるアルミ製ハブは、主にバネ下重量の削減による路面追従性向上を企図したものですが、86では対象的に鋳鋼製が継続採用されます。タイヤ入力をすべて受け止めるハブの材質は、応力の伝達特性に違いを与えます。懐の深いBRZと、刺激の強い86。兄弟車たる86/BRZは、基本的には共通の設計ですが、このように各部の仕様を変えることで、キャラクターを分けた仕立てとされています。
この他、フロントのショックアブソーバには、リバウンドスプリングを採用。伸び方向の動きを抑制しつつ、戻り側の動きを活性化。姿勢変化を抑制すると共に、応答性の向上を実現します。フロントスタビライザーをφ18mmの中実から、ほぼ同径の中空タイプに変更。剛性を確保しつつ、軽量化を図っています。
リヤサスペンションでは、スタビライザの取付点を変更。ZC型ではサブフレーム取付点から、サブフレームの足を伸ばしていたのに対し、ZD型ではサブフレームを挟み込むように左右を連結するステーを新設。このステーに取付点を設けることで、ボディ側への取付としています。これにより、スタビライザの危機を高め、姿勢変化を抑制します。
また、リヤのショックアブソーバでは、トップマウント及びブッシュのこじりバネ定数を低減。ストローク時に生じるフリクションを低減し、より効果的にダンパー効果を得るよう改善されています。
ZD型に於けるスバルの狙いは明らかです。第一は姿勢変化の抑制。そして、第二はタイヤ接地精度の向上です。これにより、ドライバーの挙動の把握を容易にしつつ、応答性と操縦性を改善。人馬一体感を創出する。これらはSGPの開発目標と全く同じであり、スバルのシャシー開発の理想形がここにあると考えて良いでしょう。
さらなる高みへ。ルーフパネルのアルミ化、車高10mmダウンにより、重心高4mm低減を実現。
ZD型の「フルモデルチェンジ」に際して、スバルとトヨタの開発チームが掲げた目標は実に意欲的なものでした。ボディ設計をほぼそのまま維持しつつ、ボディ剛性と衝突安全性能を大幅に向上させながら、車両重量はZC型同等を厳守しつつも、重心高をさらに下げる、というものです。
しかし、アチコチ補強を行えば、重量は嵩み、重量バランスは崩れ、重心高が上がるのがセオリー。しかし、開発チームはZC型の車重を維持しただけでなく、重心高を4mmも低下させることに成功しています。
エンジン・トランスミッションの移動さえ叶わぬモデルチェンジで、如何にして重心高を低減せしめたのでしょうか。その答えは、車重の10mmダウン(!!)。コロンブスの卵みたいな安直な手法ですが、限られた予算と限られた手段の中で編み出された、ある意味最適最善の解だと言えるでしょう。
ピュアスポーツに求められる素性。それは軽量・低重心だけではありません。回頭性の向上に欠かせないのが、ヨー慣性モーメントの低減です。誰しもが重たい物を持ち上げる際、お腹にピタリと付けて持ち上げます。互いの重心を近付けることでモーメントを低減しているのです。クルマも同じです。同じ車重であっても、重量物が中心に近く配置されている方が、回頭性が良くなります。
クルマで最も重たいのは、エンジン、トランスミッション、そして人間です。そこで、左右の座席間隔を7mm削減。左右方向のヨー慣性モーメント低減を図っています。この他、フロントフェンダーのアルミ化など、様々な積み重ねにより回頭性の向上を図っています。
マネージメントの勝利。ビジョンとミッションが明確だからこそ成し遂げられたフルモデルチェンジ。
プラットフォームから新規開発したZC型と比べれば、ZD型は成約だらけの開発となりました。基本的なディメンションには手を付けられず、パッケージングもそのまま。車両価格を維持するために、開発コスト・製造原価もギリギリまで削る必要がありました。
でも、そうした鉄の掟を守り抜いたからこそ、ZD型はこのスポーツカー逆境の時代に陽の光を浴びることができました。実に素晴らしいことです。そして何より、このプロジェクトをスバル・トヨタが企業の壁を越えて、素晴らしいマネージメントの元で推進されたことは、称賛に値するでしょう。目指すビジョンを一切見失うことなく、枝葉末節に至るまで、首尾一貫鉄の掟が守られています。エンジニア一人ひとりの努力は当然ながら、プロジェクトを率いたマネージメントの素晴らしさが際立っています。
さて、2021年9月17日午後、和泉店にZD型試乗車が遂に到着しました。早速、ステアリングを握り、その実力を確かめに行って参ります。皆様も、ぜひ実際に体感して、その実力を評価なさってみてください。