スバルのクルマ創り [2015年04月05日更新]
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「安心と愉しさ」
「運転」そのものを「目的」として、考えるか否か。「運転」と「移動」そのどちらに比重を置くのか。それによって、自動車メーカーの大まかな考えを伺い知ることが出来ます。
Googleが自動運転を実証実験するにあたって制作したプロトタイプには、ハンドルやアクセル、ブレーキはありません。マップ上で指定すれば、あとは自動で目的地まで連れて行ってくれる、それがGoogleが目指すクルマの姿です。それは、彼らが運転は単なる手段として、クルマを単なる移動体として考えている証左でもあります。
トラックやバス、航空機、鉄道、船舶にとってもそれは同じ。目的はすべて「移動」にあります。「運転」はそれを職業とするプロが行うもの。決してそれ自体を目的にすることはありません。安全に、安く、確実な輸送こそが、最優先なのです。Googleは、クルマというより個人所有の交通機関を想定しているのかも知れません。
では、スバルはどう考えているのでしょう。
スバルは、初代「レガシィ」を送り出して以降、明確に「運転」に比重を置くようになりました。その機運は90年代のWRC参戦で最高潮に達し、「スバル=走り」というイメージを色濃くしていきました。そして、現在では「安心と愉しさ」というフレーズを企業メッセージとして対外的に発信しています。
スバルは「スリル」のもとで運転を愉しむことを明確に否定しています。水平対向エンジンやAWD、リニアトロニック、そしてアイサイト。そうした個性的なメカニズムの数々は、「安心」のもとで運転を「愉しむ」ために選択され、維持されてきたテクノロジー達です。スバルは、終始一貫したクルマ哲学のもと、こだわりのクルマ創りを続ける世界でも珍しい自動車メーカーのひとつです。
ヒコーキ屋が作るとどうなるか。
スバル=富士重工の源流を辿ると、中島飛行機という巨大な航空機メーカーに行き着きます。戦後、富士重工が初めてクルマの開発に取り組んだとき、集まった面々の殆どは航空機エンジニアでした。彼らはクルマ屋としてではなく、あくまでヒコーキ屋としてクルマを作り上げました。その伝統は今も連綿と受け継がれていて、この伝統こそがスバルの個性的なクルマ創りの源流となっています。
中島飛行機が駆け抜けた20世紀前半は、航空機が目覚ましい発展を遂げた時代です。飛ぶのが精一杯といった布張り複葉機から、航空機技術は急速に進化を遂げて、1947年には音速の壁さえ突破してしまいます。
この時期の航空機のメカニズムは、性能の極限を追い求めて多様な進化を遂げていきました。そこには常識や公式、レシピなどは存在せず、可能性のある限りあらゆる技術が追求されました。かつて中島飛行機に籍を置いていたスバルのエンジニア達は、この時代に磨かれた人々でしたから、クルマを創るにあたっても何かに束縛されることはなく、自由な発想であらゆる可能性を理詰めで追求したのです。
スバルの技術哲学と設計思想。
では、乗用車を設計するにあたって最も大切なことは何でしょうか。初期のスバルにおける車体開発を牽引した百瀬晋六はこう語っています。
「世の中に完全なものはない。しかし完全なものに近づける努力はできる筈だ。技術者はそれに挑戦する。あたえられた条件の中で、あたえられたテーマを満たすための正しい努力、それはむつかしいことだ」
さらには、以下の様な記述があります。
”自動車の性能について”という報告書が作成され、今後スバルが目指すべきクルマについての提言が成されている。
自動車の性能について
1. 大きさの割に居住性がよく、トランクが広い、室内の荷物置き場が広い、整備点検が容易なレイアウトとする。
2. 軽量化に努める。
3. 乗り心地、安定性をよくするために4輪独立懸架とする。
4. 入念な設計と実用耐久試験による耐久性の良さ。
5. 山と高速試験で鍛え、低速から高速までの信頼性を確保する。
(引用:富士重工ウェブサイト「SUBARU Philosophy」より)
「スバルが目指すべきクルマ」という理想像から導き出された設計思想を、百瀬晋六の技術哲学のもとで具現化したとき、革新的な数々の自動車たちが生まれたのです。スバル「360」において百瀬晋六は、限られたサイズの中で最高の動力性能と最大の室内空間を実現する、意欲的な設計を採用しています。その結果、4名フル乗車を可能とする軽乗用車が初めて誕生したのです。その影には駆動系の極端なコンパクト化と、航空機エンジニアの面目躍如たるグラム単位の軽量化がありました。
スバル車のレシピ。
スバル車を特徴づけている水平対向エンジン。スバル初の量産乗用車であるスバル「1000」の開発に際して、百瀬晋六は以下のような指示を出していました。
1.FFなので、ドライブシャフトの作動角をできるだけ小さくするよう、車体の中心にデファレンシュアル・ギヤを置く。
2.ドライバーが運転しやすいようにペダルの配置を決めてあるので、それは変更できない。
3.重心点を低くするためとボディデザインの自由度を大きくするために、エンジンの高さを低くしてほしい。
4.FFなのでフロントのオーバーハングを短くしたい。
5.乗り心地を良くするために振動が少ないこと。
(引用:富士重工ウェブサイト「SUBARU Philosophy」より)
徹底した研究の結果として採用されたのが、水平対向エンジンだったのです。まず水平対向エンジンありきではなく、理想の乗用車を創り上げる過程の中で産み出された、最適解であったとも言えるでしょう。
百瀬晋六の指示により、車体中心にフロントデフを配置したことからドライブトレインは自然と左右対称となり、短いフロントオーバーハングと重心が低いことを合わせて、運動性能の素性に極めて優れた乗用車が誕生することになったのです。それは取りも直さず、日本の大戦機が常に追い求めていた「良好な運動性」を獲得することにも繋がったのです。1966年に誕生したスバル「1000」と同時完成したこのレシピは、約50年を経過した今日まで連綿と受け継がれています。
望外の喜びとなったのは、FFから4WDに簡単に仕立て直せることでした。これレシピであれば、トランスミッション後方から簡単に後輪用の出力を取り出すことができたのです。電力会社の要請で作った改造車に端を発する4WDは、世界初の4WD乗用車として歴史に記されることとなり、いつしかスバルのレシピに加わることになります。