「LEVORG 1.6 STI Sport EyeSight」試乗記 [2016年09月05日更新]
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いま、新しいSTIが始まる。
日本の熱烈なファンに支えられてきた、STI。限定車は即日完売、中古車はプレミア価格。欲しいと思った時には、買えない幻の存在。でも、一度は乗ってみたいこだわりの一品。 そんなSTIが、いま変わり始めています。
スバルが新たにカタログモデルとして展開を開始する、STI Sport。カタログモデルの最上級グレードであり、最高の動的質感を具現化する存在であり、いつでも誰でも買えるモデル。そんなコンセプトで新たに展開を始める、STIの新たなるシリーズです。
スバルのツーリングワゴンの正統な後継者である、レヴォーグ。そんなレヴォーグに新たに登場した、STI Sport。一体、どんなポテンシャルの持ち主なのでしょうか。
ワークスチューニングモデルとしては、存外にリーズナブルな価格設定。
ワークスチューニングといえば、M社やAMG、Audi SPORTなどが思い起こされます。ブーストアップされたエンジンとハードな足廻り、ローダウンされた迫力の増したアピアランス、上質かつ刺激的なインテリア。そんなレシピが今や王道です。そのプライスタグは、オリジナルの2倍に届くこともあります。
それを念頭にSTI Sportの周囲をグルリを見て歩くと、STIが目指すものが全く別のところにあるとスグに理解できるでしょう。迫力が増したとは言えないエクステリア、まったくローダウンされていない車高、ノーマルのままのエンジン、ベースから+20万円という価格設定。このクルマ、そんな魅力があるだろうか。そんな要らぬ心配さえ浮かんできます。
しかし、そんな心配はまったくの杞憂に過ぎませんでした。
想像以上にシックな仕上がりのインテリア。
STI Sportで話題になっている、刺激的なボルドーに彩られたインテリア。ところが、実物を前にしてみると、意外にもシックで落ち着いた仕上がり。エンジというよりマルーンに近い深いトーンが、アダルトな上質さを感じさせます。スポーツモデルならではのスパルタンな印象よりも、レヴォーグの最上級グレードらしい風格が感じられます。
はやる気持ちを抑えて、ボルドーのレザーシートに身を預け、ドアを閉める。外界の音はパタリと止んで、シックで上質な空間に包み込まれます。それでも、チェリーレッドのステッチやロゴが、STIモデルであることをさり気なく主張しています。
ブレーキを踏み込み、スタートボタンをプッシュ。軽いクランキングで、ボクサーエンジンが目を覚まします。電動パーキングを開放し、セレクトレバーを引き込む。ブレーキを緩めると、STI Sportはスルスルっと動き始めます。
しっとり滑らかな仕上がり。ノーマルより、ソフトな乗り心地。
据え切りでステアリングを切り込んでいくと、手応えが少し違うことに気が付きます。GT-Sでは分からなかった路面のザラつきが、手のひらに確かに伝わってくるのです。STI Sportで新たに採用されたステアリングギアボックス強化スティフナーが確かに効果を発揮しています。
三河安城本店を出て、県道48号線を西に向けて出発。流れに合わせスーッと加速していくと、スグにSTI Sportのポテンシャルの高さが明らかになりました。
サスペンションに於いて、姿勢制御と乗り心地は常に相反するファクター。ところが、こういったスポーツグレードでは常用速度域が上がるのに合わせて、姿勢制御能力を高めねばなりません。そこで、サスペンションを硬めの仕立てにするのが常道。スポーツカーは乗り心地が悪い、それは当然の常識なのでした。STIモデルであっても、その宿命からは逃れられません。
ところがどうでしょう。このSTI Sport、ノーマルのGT-Sよりもむしろ乗り心地がイイではないですか!225/45R18を履くからには、荒れた路面でガタガタッと拾ってしまうのは致し方ないはず。けれど、STI Sportは違います。振動を極めて精密、かつ滑らかに納めていきます。その様は、路面に絨毯を敷いて走っているかの如く滑らか。工事跡の段差も、涼しい顔でしっとり滑らかにこなしていくのです!
優しくしなやかだけど、芯がある。キレがあるけど、過敏じゃない。
コーナーに差し掛かり、ブレーキで軽くフロントに荷重を乗せながらターンイン。すると、その乗り心地からは想像できない、芯の強いロール剛性を感じます。スッと切ると、スッと曲がる。まったくフラットな姿勢のまま、極めて正確に向きを変えていきます。
ここで、小生の脳ミソは混乱!「ソフトな乗り心地=フワリとロールする」という方程式が成立しないのです。
ビルシュタインが開発したDampMaticIIは、振幅に応じて減衰特性を変化させるというスグレモノで、ロールやピッチングといった大振幅域では減衰力が高まり、乗り心地領域の低振幅域では減衰力を下がる特別な機構を有しているのです。STI Sportは、このDampMaticIIをフロントダンパーに採用。姿勢制御のためにスプリングを固くする必要がないため、その分乗り心地を確保できているのです。
電子デバイス無しでこのクォリティ。さすがビルシュタイン。素晴らしい!!
フレキシブルタワーバーなしで、タワーバー付きに匹敵する操舵応答性。
和泉店のレヴォーグの試乗車は17インチ仕様の「1.6 GT-S EyeSight ProudEdition」で、フレキシブルタワーバー+フレキシブルドロースティフナーをフロントに、リヤにラテラルリンクセットを装着しています。操舵応答性と操舵に対する正確性が向上、ステアリングインフォメーションもより豊かになりました。サスペンション剛性が高まっているからです。
これに対し、今回試乗したSTI Sportには一切STIパーツは装備していません。この両者を比較すると、操舵応答性、操舵に対する正確性は、ほぼ同等。しかし、静粛性と動的質感、乗り心地では、明らかにSTI Sportが大きく上回っています。タイヤがインチアップしているにも関わらず・・・です!こんなこと、あり得ない!!
STI、恐るべし。DampMaticIIによって向上した減衰能力の分、よりスプリングを柔らかく仕立てて乗り心地を確保。路面入力のピークをカットしつつ、2次振動が大幅に減少させたことで、静粛性も一気に向上。
結果として、動的質感が劇的に向上しているのです。
これは、絶対に「買い」。レヴォーグのベストバイはコレだ。
<闇雲にパワーに頼らず、絶対的パフォーマンスに重きを置かず、数値に現れる領域よりも、感性に響く領域に徹底的にこだわる。だからと言って、使い勝手や快適性を決して犠牲にしてはならない。それが、スバルの目指すクルマ創りです。/p>
動的質感というキーワードで、ここ数年徹底的に走りのクォリティにスバルはこだわってきました。その真骨頂としての存在。それが、STI Sportだと言えるでしょう。これだけの動的質感を見せつけられると、レヴォーグのベストバイとして認定せざるを得ません。特に走りにこだわらない方であっても、この乗り心地の良さは本当にオススメ。レヴォーグのフラッグシップグレードとして、誇るべきポテンシャルの持ち主なのです。
今後、STI Sportは共通のアピアランスで各モデルに設定されていく予定です。スバルのフラッグシップグレードとして、STI Sportはブランド力のアップに大きく貢献することでしょう。