新型インプレッサ試乗記「コイツはとんでもない傑作だ!」 [2016年10月21日更新]
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驚愕の完成度。もはや、ファミリーカーにあらず。
スバルは新型インプレッサを「初代レガシィ以来の一大革新」だと、公言してきました。スバルの近未来を担う入魂の一作たる、新型インプレッサ。その一方、コストとクォリティに制限があるCセグメントでいったい何ができるのか?疑いにも似た感情は「大言壮語」という言葉となって頭をよぎる中、小生は新型インプレッサの試乗・研修会に向かうべくレヴォーグで亀山に向かっていました。
SUBARU GLOBAL PLATFORM(以下、SGP)という、完全新設計の次世代シャシーを初採用した新型インプレッサは、今後10年のスバルを占う存在として社運を掛けて開発されています。その出来が余りにも酷ければ、スバルというブランドは業界再編の波に飲まれてしまうでしょう。つまり、それだけ新型インプレッサは重要な役割を担っているのです。
富士重工業主催の試乗会で、明らかになったそのポテンシャル。今回は、その詳細をお届けしましょう。
確実な進化を伺えるものの、パッと見は極フツー。
三重県にあるショートサーキット「鈴鹿ツインサーキット」が、今回の舞台。訪れてみると、パドック裏には比較用の他メーカ車と共に、新旧インプレッサが列をなして並んでいます。ひとつ困ったのは、パッと見で新旧を見分けられないこと。新型インプレッサをよくよく見ると、面の構成は格段に緻密になっていて、その佇まいは格段に高級感を増しています。ただ、その違いは劇的なものではありません。
不安が、次第に大きくなってきました。新型インプレッサは、本当に革新的進化を遂げたのでしょうか?
レヴォーグはおろかレガシィさえも凌駕する、精緻かつ上質なインテリア。
まずは、ワインディングを模擬したサーキット内のアプローチ路での試乗からスタート。期待と不安が入り交じった、不思議な気持ちのまま、運営スタッフの方から指示される通り、「IMPREZA SPORT 2.0i-S EyeSight」のドアを開けて乗り込みます。
(ここから、まるまる4時間。新型インプレッサに私は度肝を抜かれっぱなしになるのです。)
早速、その進化を感じたのが、驚きの静粛性の高さ。静粛レベルはレヴォーグを超えて、アウトバックと同等かそれ以上。ドアを閉めると、ピタリと喧騒が消えて静寂に包まれます。そのレベルは、スタッフ氏の指示を聞くため慌てて窓を開けたほど。ステアリグの感触を確かめるために指を滑らせると、その微かな音もハッキリと聞き取れます。
エアコン等のスイッチ類は、スバル伝統のシンプル設計。何処に何があるか、迷わずに操作が可能。それぞれの操作感も、質感向上に役立っています。
インテリアをコックピットだと捉えて設計を行う、スバル。派手な加飾は気が散るので、一切なし。そんな伝統は、新型インプレッサにもしっかり受け継がれています。視界は限りなく広く取られ、明るく落ち着いた室内空間に仕上がっています。一方で、各パネルの繋がりや連続感はスゴくよく作り込まれていて、シンプルながら操作しやすく、精緻な機械感を強く感じさせます。
一般道試乗:安心感に包まれながら、ガンガンに踏んでいける。恐ろしい完成度の高さ。
無線から指示が飛び、いよいよその一歩を印します。電動パーキングを解除し、セレクトレバーをDレンジに引き込む。この、発進から流れに乗るまでの極低速~低速領域。スバルは今回、クルマの質感が明確に現れるこの領域に徹底的にこだわりました。
ブレーキをリリースすると事も無げにスルスルと動き出す、新型インプレッサ。適度に重いアクセルペダルを踏み込むと、スッとエンジン回転が高まると同時に、グッと押し出すように力強く加速していきます。CVTの悪癖である、エンジン回転と加速がズレるズルズル感、リニアトロニックにも僅かに感じられるあの感覚。新型インプレッサでは、それが完全に払拭されています。
直噴化によるエンジンレスポンスの向上と、リニアトロニックのレシオカバレッジ(変速範囲)の拡大とイナーシャ低減が大きく効果を発揮しています。燃費改善ための改良ばかりが幅を利かす昨今、純粋にフィーリング向上を狙って改良を施したスバルには本当に驚かされるばかりです。
アクセルで、直接クルマを押し出しているようなダイレクト感。この感覚は、クセになりそうです。
徹底的に鍛え上げられたシャシーを持つ、新型インプレッサ。
まずは、試乗会用に置かれた凸凹を乗り越える。ゴンゴンッドンッ!とフロア振動が起こりそうな、エッジの効いた凸凹です。ちょっと振動に身構えるように通過する。ところが、何と拍子抜け。新型インプレッサは、コンコンコンと柔らかい音を残して、軽やかに通過してしまうではないですか。しかも、この印象はフロントもリヤも変わりません。これは、半端な進化ではありません。
おいおい!コイツは18インチじゃないのか!?完全に、呆気に取られてしまう小生でした。
現行SIシャシーではリヤバルクヘッド付近でサイドフレームが途切れ、剛性の切れ目が生じています。弱点はココにありました。剛性が劣るシャシーでサスペンションを固く締め上げると、サスペンションからの突き上げに充分対抗できず、ボディにより大きなキシミやねじれが生じます。走りの精度が低下し、NVH(音や振動)も悪化。となると、サスペンションを緩め、ボディ入力を軽減させる他ありません。旧型インプレッサでリヤの突き上げを解消するため、マイナーチェンジでサスペンションを柔らかくしたのは、そのためです。
SGPでは前後を縦貫するフレームを2本増やし、さらにテールエンドまでサイドフレームを貫通。シャシー全体でねじり剛性を70%も引き上げた他、サスペンション剛性も大幅に向上。強靭なシャシーに進化した分、強いサスペンション入力でもボディがしっかり反力を発揮。サスペンションをしっかりストロークさせて、ショックを吸収します。例え、18インチという低扁平タイヤでも新型インプレッサは、余裕をもって路面入力を「いなす」ことができるのです。
オドロキにオドロキが重なる新型インプレッサ。しかし、本領発揮はまだまだだったのです!
盤石の接地感。経験のない人馬一体感。コイツはとんでもない完成度。
パドック裏を抜けてアプローチ路に出ると、先導車のフォレスターXTは一気に加速。追いすがるべく、コチラも一気に60km/h近くまで加速する。グルルルッーと小気味よいボクサーサウンドを響かせて、新型インプレッサはスピードに乗っていきます。
まずは、左コーナー。スーッと切り込んでいくと寸分違わずヨーが立ち上がり、グッ―と結構なコーナリングフォースが掛かってきます。続いて、右コーナー。この左右の切返しは、サスペンションの良し悪しが明確に感じられるポイントです。現行インプレッサでは切返しの瞬間に接地感が抜けるために、ロールが落ち着くまでフラつくような感覚に襲われる、そんなシーンです。ところが、新型インプレッサは違います。
ロール角自体が小さいため切返しが素早く、接地感が片時も抜けません。ステアリングフィールはいつでも明瞭で、路面をありありと感じながら、自信を持ってコーナーに進入していけます。舵角自体も明らかに小さく、常にコントローラブル。
強靭になったシャシーが作り出す、異次元の正確さを持ったコーナリング。コイツはトンデモナイ進化!もう、あっという間に懸念は吹き飛んで、オドロキと興奮が小生を襲ってきます。
Cセグメントではありえない、とてつもない懐の深さ。
その先は左へ旋回しながら下る、ブラインドコーナー。クルマとの一体感に欠けるクルマだと、少し対向車が心配になるコーナーです。しかし、ココでも違う。安心感がケタ違いなのです。何かあっても絶対に対処できる、そんな人馬一体の安心感。たったコーナー3つです。たった、数十秒でその感覚は絶対的なものになっていました。ブレーキを掛けながら急勾配を下りきると、側溝のグレーチングが道路を横断。ゴンッ!ダンッ!と暴れるイメージが頭をよぎり身構えます。
いやいや、しかし・・・!コンッスタンッと何喰わぬ顔で通り過ぎる新型インプレッサ!何という事でしょう。本当に、コイツはファミリーカーなのでしょうか。