かつてない逆風の中、スバルの命運や如何に。 [2018年11月09日更新]
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かつてない逆風の中、スバルの命運や如何に。
スバルの販売・整備を中心に、他メーカー車の販売・整備を並行して生業としている私どもにとって、スバルの置かれた状況はとりわけ厳しいものと実感しています。それでも、店頭に足をお運びいただけるお客様がいらっしゃることに、何よりも感謝と御礼を繰り返す毎日です。
スバルは、世界にたくさんのファンがいる稀有なメーカーです。数多ある量販車メーカーにも関わらず、これだけ「熱いファン」がいるメーカーは他にはありません。
水平対向エンジンが生み出す、一種独特のボクサーサウンド。真面目で朴訥とした、デザインセンス。理詰めで、純真な設計思想。それらは良さでもあり、時に欠点でもあります。それでも、「あばたもえくぼ」で愛していただいているのが、今のスバルです。
しかし、繰り返されるスバルのニュースを見て、ファンの皆様は憤りを通り越して、悲しささえ感じておられるかも知れません。
生産台数の急激な上昇により、各現場が疲弊。
スバルは、この10年で米国での販売台数を倍増させました。フォレスターの躍進は殊に目覚ましく、特に先代SJ型フォレスターは凄まじい勢いで販売台数を増やしていきました。今や、ヒュンダイとは僅差で、全米8位の販売台数を誇ります。トヨタ、日産、ホンダとビッグ3で計6メーカーですから、その躍進ぶりは凄まじいものです。
ただ、スバルという企業が、これら巨大メーカーに伍するだけの体力が無いのは事実でした。一方で、80年代ならいざ知らず、10年先が不透明な自動車業界とあって、いたずらな生産設備と開発体制の増強は多大なリスクを伴います。それ故、スバルは巨額な設備投資を抑えつつ、現状能力の稼働率向上によって、好況の波を乗り切ろうとしたのです。
結果的に、その判断は誤りでした。開発部門も、品質部門も、生産部門も、サービス部門も、全てが一杯イッパイで、疲労と不満だけが蓄積されていったのです。それが、一連の問題の原因と言われています。
でも、それはタダの言い訳。待ち受けるのは、茨の道。
多忙、疲弊、生産過剰、経営判断・・・。そんなことは、ユーザーの皆様にはどうでもイイことです。ご購入いただいたスバル車を、長く安心して楽しめること。それだけが、お客様の願いです。
にも関わらず、スバルがお客様に多大なご迷惑をおかけして、大いに失望させてしまっているのは、厳然たる事実です。
「もう、次はスバルは買わない。」そんな厳しいお言葉を頂戴することも一度や二度ではありません。私たちは、それでも「スバルの良さをご理解ください、信じてください。」と懇願する他ありません。
たくさんのファンに支えられてきたスバル。その根幹が崩壊しつつあるのは、間違いのない事実です。しかし、信頼回復は茨の道です。良い評価を頂くのは、良いものを作るのみ。しかし、信頼を回復するには、不信の払拭ができて、やっとスタートなのです。
安全は守るものではない。つくるもの。
命の心配をしながら交通機関を利用する方はいないでしょう。海外ならいざ知らず、国内にあっては重大事故などよもや遭遇するまい、と。それは、機械工業に携わる皆さんも同じでしょう。まさか、重大事故など起こるはずもない、日本の工業産品に重大な瑕疵などあり得ない。日本人は誰よりも真面目だし、それくらいの技術は確立されている。安全は守られている、と。
しかし、それは幻想に過ぎません。安全は守るものではないのです。「つくる」ものだからです。
先人たちは、数限りない犠牲のもと、安全を築き上げてきました。
エンジニアの本分とは、技術開発・製品生産を通じて、世界人類の発展・繁栄に貢献することにあります。売れれば、良い。利益があれば、それで良い。エンジニア本来の姿ではない企業利益・株主利益第一主義は、時に綻びを生む可能性があるのです。
このままでは、このままでは。。。良いクルマを作っているのに。
「安直なスゴいクルマ」ばかりが、世を跋扈する時代。これだけクルマ創りにこだわりがあるメーカーは、世界を見渡しても多くはありません。
死角を最小化する視界設計、生存スペースを最大化する空間設計、重量増を甘受してのボディ剛性向上、燃費を諦めてのドライブフィール向上。その多くは、時代に逆行しているかも知れません。でも、そこにはスバル独自のクルマ哲学が溢れています。
クルマ哲学は、メルセデスも、ボルボも、シトロエンも、レンジローバーも、殆どのメーカーが放棄してしまったものです。錆び付いた古びた伝統かも知れません。でも、スバルは、今もこれからも、自らの哲学を受け継いでいきます。
売れるクルマを作るのではない。自らが正しいと信じたクルマを創る。それが、スバルのスバルたる姿です。ファンの皆様には、どうかスバルを信じていただきたく、そう切に願う次第です。
原点への回帰。ひとつの提案。
道に迷ったら、原点へ立ち返るのが一番です。トヨタが「カイゼン」だとしたら、スバルの原点とは何でしょうか?
よく知られるのが、初代―2代目レガシィ、そして初代インプレッサWRXの、水平対向ターボ+4WD。ただ、これは一つの通過点に過ぎません。原点と言うには、余りにも新しい。。。
本当の原点は、航空技術に根ざした極端なシンプル志向にあります。限られた出力の中で、要求性能を満たすための唯一の策。それが、徹底的な軽量化と合理化でした。スバル「360」、スバル「1000」が、この思想でつくられています。
「理想的な運動性能と安全性能」という絶対善の理論のもと、目標達成のために徹底的に贅肉を削ぎ落としていく超軽量設計と極端な合理化。それは殺風景と言われるほど徹底しており、隼、疾風といった大戦機の設計思想を想起させます。
そう、この2台こそがスバルの本当の原点なのです。
スバル360とスバル1000。リバイバルするとしたら。。。
当時は絶対不可能と言われた、大人4名が乗車できる360ccの軽自動車、スバル「360」。そして、理想の運動性能を実現するため、世界で初めてFF方式を実用化したスバル「1000」。
当時のスバル技術陣を今に蘇らせたとしたら、彼らはどんな議論を始めるのでしょう?彼らの創る理想の軽自動車と小型乗用車の姿とは。。。
コンパクトでシンプル、そして軽い。究極のドライブトレインを実現するため、彼らは翌朝まで議論を続けることでしょう。皆さんも秋の夜長に、ぜひ空想を広げてみてください。