東モ開幕直前!トヨタは、スバルに何を求めるのか? [2019年10月22日更新]
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トヨタとの資本提携強化で、スバルはスバルで無くなってしまうのか?
2019年9月27日、トヨタとスバルは新たな業務資本提携に合意しました。トヨタは自身が保有するスバルの株式数を議決権比率20%まで高めると共に、スバルはこれとほぼ同額となる800億円を上限にトヨタの株式を取得することで合意。これにより、スバルはトヨタの関連会社となり、トヨタの連結決算にスバルの損益が加算されるようになります。
トヨタは、競争当局の承認が得られ次第、株式の取得を開始する予定であり、所定数の株式取得が完了され次第、スバルはトヨタのグループ傘下に加わることとなります。
この後、トヨタがスバルに対する出資比率を高めていくのかは不明ですが、経営への関与を強めるのは間違いないでしょう。ただ、ダイハツのような完全子会社化がなされる訳ではありませんから、スバルの経営独自性が失われる、という事でもありません。
では、今回の資本提携がスバルにどんな影響を及ぼすのか、スバルの未来がどう変わるのかを見ていきましょう。
トヨタは、スバルの何を求めたのか?そして、何を求めるのか?
今回の資本提携により、今後トヨタはスバルの筆頭株主として一定の経営支配力を有することになります。では、トヨタはなぜ、スバルを欲したのでしょうか?
現在、トヨタはマツダとも資本提携を結んでおり、マツダの株式5%を保有しています。ただ、この提携は、現時点でのトヨタのスバル株式保有率8.7%さえ下回っており、相互に対等な業務資本提携と考えて良いでしょう。つまり、トヨタはマツダと手を組んだのであって、マツダの支配を望んだ訳ではありません。
この違いは、何処にあるのでしょうか?少なくとも、トヨタがスバルの経営安定性と将来性を高く買っているのは間違いないでしょう。連結決算に入ることを考えれば、グループ全体の利益を棄損するような会社をわざわざ取得するとは思えないからです。
では、トヨタはスバルの世界販売100万台の上積みを望んだのでしょうか?
トヨタは20兆円とも言われる内部留保を抱える、世界屈指の経営健全性を誇る優良企業です。トヨタの世界販売台数は1000万台を少し超えた辺りで安定しており、これは世界第3位に当たります。一方で、2000年代末のリコール騒動の教訓から、台数をこれ以上追いかけることはしないとトヨタは明言しています。今のトヨタにとっては、「経営が如何に健全で次世代に対する余力を持てているか。」が大切なのであって、世界何位かどうかは重要ではないのです。
つまり、トヨタには、スバルを使って1000万台を1100万台に増やそうという動機は、恐らく無いということです。
シナジー効果は、スバルにあって、トヨタにはない?
トヨタがダイハツに続き、スズキと資本提携に踏み切った理由は明確です。ダイハツとスズキのコンポーネントの共有化により、CASE時代のコンパクトカー開発で鍵となる、シナジー効果を強めるためです。
軽自動車の電動化する際に問題となるのが、駆動ユニットと駆動用バッテリの価格。もし、ダイハツ・スズキの主要コンポーネントが共通化されれば、そのシナジー効果は相当なものとなるでしょう。また、インド市場で50%近いシェアを誇るスズキの販売網を活かし、トヨタは小型車に加えてミディアムクラスでもその主導権を握っていくつもりでしょう。
こうした効果は、日野にも言えます。現在では、トヨタ・ダイナは日野・デュトロのOEMモデルである一方、日野・リエッセはトヨタ・コースターのOEMモデルとなっています。トヨタと日野は相互に補完し合うことで、あらゆる市場に対する対応力を得る、それが業務提携のメリットです。
そういう意味では、トヨタにとってスバルはシナジー効果を期待する相手ではありません。スバルは技術的個性がブランドの根幹を成しているため、部品共通化率を高めたり、部品在庫を共有化する等、企業間の相乗効果を得るには限界があります。加えて、スズキのインド市場や三菱のタイ市場のように、オンリーワンの強さを誇る地域をスバルは持っていません。スバルが得意とする北米市場は、トヨタも当然主戦場とする地域だからです。
その一方で、スバルはCASE時代に備えて、HV技術や電動化、コネクティッド等、トヨタグループの最新技術を享受できるメリットがあります。小規模メーカーでは単独開発が難しい、これら最新技術が手に入るのですから、今回の提携強化はスバルの将来的な経営安定性に大きく寄与することになります。
では、トヨタはなぜスバルを欲したのでしょうか?
次代のエネルギー源は多様化する。全方面作戦を戦うために、仲間を求めたトヨタ。
スバルは、トヨタと共同で新時代へ向けたBEVを開発中です。「ミッドサイズSUV」と仮称されるそのモデルは、厳しい箝口令が敷かれていて、情報は中々掴めていませんが、数年内には間違いなく登場するはずです。実は、この次世代BEVが、どれだけの需要があるのかは、トヨタも分かっていません。
現在、トヨタが目指しているのは、100万台規模のBEV生産体制の早期確立です。プリウスが2代目末期で突如ブレイクしたように、BEVがいつ自動車の主役となるのかは、現時点ではまったく予想できていないのです。しかし、トヨタはその時代に於いても絶対的な強さを堅持すべく、リスクを犯してでも100万台体制の早期構築を目指しているのです。
一方で、トヨタはBEVだけが次世代自動車の最適解だとは考えていません。在独メーカーは、一心不乱にBEVを志向するのに対し、トヨタはこれに警鐘を鳴らしています。なぜなら、電気は全世界何処でも安定的に得られるエネルギー源ではないからです。
トヨタは水素、電気、ガソリン、軽油、太陽光と様々なエネルギーが、地産地消・適材適所で用いられることが、最も適切であろうとしているのです。
しかし、全方面作戦はコスト面で多大なリスクを伴います。モータ・バッテリ・インバータのみならず、ガソリン・ディーゼルの両内燃機関とトランスミッション、燃料電池、太陽電池と、開発分野が相当多岐に渡るためです。そこで、トヨタはリスク分散を図るべく、仲間集めをはじめました。元のダイハツ・日野に加え、スズキ、マツダ。そして、スバルです。
トヨタは世界随一の規模を誇る巨大連合を確立し、新たなる時代の闘いに挑むことになります。これらから、メーカーの垣根を越えて主要コンポーネントの共有化が図られ、コストミニマムで最大限の魅力を持つ次世代車の開発を進めていくことになるでしょう。
未来のトヨタ製SUVは、スバルのAWD技術で大きく飛躍する。
プレスリリースに記載された、トヨタの期待。それは、スバルの持つAWD技術です。
スバルのドライブトレインは、普遍の伝統技術です。百瀬晋六がスバル1000で設計し、後年にそこにリヤデフを追加したものの、そのまま維持されてきたものです。低重心・左右対称という極めて理想的な重量配分と駆動配分により、世界に誇る走破性と走行安定性を実現しています。80年代には、そこに電子制御を追加。さらにその能力を高め、今に至っています。
トヨタとスバルが共同開発する、ミディアムSUV。SUVというからには、4WDは必須です。特に、EVではモータ数で大凡の車両出力が決まりますから、ミディアム以上のクラスとなれば、前後にモータを搭載し、250kW級の出力は標榜したいところでしょう。そうなれば、フロント150kW+リヤ100kWというのが、見積もられる処です。
つまり、高出力を求められるアッパークラスのBEVでは、AWDがむしろ標準となるだろうと思われるのです。
スバルのAWDは、自身でも「解明不可能」な高い走破性を誇っており、その技術の妙は絶妙な重量配分とトルク配分にあると言われます。BEVに於いても、このスバルのAWD技術を応用することで、高い走行安定性と走破性を有する、電動化時代のSUVを作ろうとしているのです。
トヨタは、砂漠の王者たるランクル擁する、SUVのトップシェアメーカーです。電動化時代に備え、ここにスバルのAWD技術を持ち込むことで、次の時代でのSUVの覇権を確立したいと考えたのでしょう。今から十数年後には、スバルのAWD技術を持つEV仕様のランクルが、世界の荒れ地を駆け回っているかも知れません。
スバルの開発手法は、非効率で改善点だらけ。でも、だからこそトヨタはスバルを求めた。
ただ、スバルの開発手法は、トヨタから見ればカイゼンの隙だらけです。
スバルは、エンジニア自らが徹底的に走り込むことで「こだわりに満ちた走り」を実現しています。もっといいクルマづくりを目指すには、走り込みは最も力点を置くべき作業です。ただ、走り込みは近代の自動車開発で最もムダとされる工程でもあります。
試作車で走り込みを行うには、早いタイミングで自走可能な試作車を用意せねばなりません。これは、開発期間の長期化を意味しています。手作りの試作車は1台1億円以上とも言われ、海外テストでは輸送費や人件費も上乗せされます。そして何より、走り込みで見出された要改善点を織り込む為に、開発工程を遡って適用せねばなりません。こだわり派揃いのスバルなら、いくらでも遡って改善点を適用するでしょうが、トヨタでは当然許される所業ではありません。開発の手戻りは、コストアップは当然ながら、発売時期の延期さえ考慮せねばならないのです。
開発期間の長期化は、投資回収が長期化するのと同義あり、損益分岐点を押し上げる要因ともなります。そのため、自動車工業界は開発期間の短縮化を目指して日夜努力を続けているのです。その筆頭がトヨタであり、結果生まれたのが「80点主義」です。
80点も85点もその差は極僅か。プロしか、感じられない。ならば、コスト優先で行けば良い、というわけです。つまり、スバルのこだわりは、トヨタと目指す方向と、全く逆方向とさえ思われるのです。
エンジニアが自ら走行テストを行うスバルでは、若いエンジニアが一人前になるのにも、相当の時間を要します。時間もお金も人材にも、トヨタが最も嫌う「ムダ」が生じるのです。そもそも、自ら走ること自体、「餅は餅屋」方式のトヨタからすれば、全く理解できないことでしょう。こうした手法の違いは、86/BRZ開発の際に相当苦労したらしく、当初はどちらも「外国語を喋っている」くらい言葉が通じなかった、と言われています。
最も懸念されるのは、この世界に誇るべき「ムダ」な開発手法が、トヨタの支配力によって後退を余儀なくされてしまうということです。それでは、スバルはスバルでなくなってしまいますし、トヨタがスバルを欲した本来意義さえも失われてしまうのです。これでは、全くの本末転倒でしょう。
スバルはトランスミッションの内製を近々終了し、AW製ミッションへ。
そもそも、スバルというブランドを支えているのは、技術的個性です。その究極たる水平対向エンジン+左右対称ドライブトレインというパッケージングは、1960年代以来ずっと堅持されてきたものです。その有効性は90年代のWRC活動を通して世界の認めるところとなり、今や伝説ともなっています。それを放棄してしまえば、スバルはスバルでなくなります。
トヨタは、スバルが技術的個性を失ってトヨタ化することは、決して求めないでしょう。レガシィがカムリになっても、互いに市場を食い合うだけで、拡販には繋がらないからです。スバルは、現在の高い利益率を維持しつつ、技術的個性を全面に出した個性派こだわりブランドとして訴求していくことになるでしょう。
その一つの答えとなるのが、CROSSTREK HYBRIDです。コアとなるそのトランスミッションは、実はTHSです。トヨタが世界に先んじて開発した、2つのモータにより、モータ+エンジンのソース配分と変速機構を実現するというお馴染みのシステムです。
今回の提携では、THSの他モデルへの展開が明記されています。
トヨタは、昨年相次いで新子会社を設立しています。その中の一つが、BluE Nexusです。EVの駆動ユニットは、インバータ+モータ(変速機構)で構成されます。当然ながら、インバータはデンソーで、モータ(変速機構)はアイシンAW製となります。この音頭を取るのがトヨタでは、他メーカーへの納入が不可能ですから、新たに統括会社を作ったというわけです。
恐らく、今後スバルはこのBluE Nexusからトランスミッションを調達するようになるでしょう。つまり、リニアトロニックは今後縮小され、徐々にアイシンAW製トランスミッションへと切り替えていくのが既定路線となるでしょう。こうすることで、低コスト低リスクでスバルは一気に電動化率を高めていくことが可能になるのです。