新型レヴォーグと共に登場、EyeSight ver.4の実力徹底検証。 [2019年10月27日更新]
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新型レヴォーグとともに、登場。スバルが誇る最新アイサイト。その実力を徹底検証
2019年東京モーターショーで、ワールドプレミアされた新型レヴォーグ。新型エンジン、フルインナーフレーム構造のSGPと共に進化を果たすのが、世界屈指の技術水準を誇る「EyeSight ver.4」です。(現時点では「新世代アイサイト」と銘打たれており、本当にver.4となるかは不明です。今回は仮称として、ver.4を使用します。)
ADAS(先進運転支援システム)は、各国の道路法規を確実に遵守せねばなりません。また、ALK(アクティブレーンキープ)は、ヒステリシスの少ないロープロファイルタイヤの方がマッチングが良好です。そのため、スバルは新型アイサイトを初搭載する車種に、国内市場をメインとするレヴォーグを常に選んできました。
2014年にレヴォーグのデビューと共に登場した、レーンキープアシストを実現する「EyeSight ver.3」。2017年に登場し、全速度域でのレーンキープを実現した「EyeSight ツーリングアシスト(ver3.5)」。そして、今回レヴォーグのフルモデルチェンジに合わせ、新たに「EyeSight ver.4」を初搭載することになります。
ver.4では、ハードウェアが日立オートモティブ製から、全く新たな海外製へと変更されており、これに伴ってソフトウェアは全面的に刷新されることになります。新型レヴォーグのプレスリリースから、新たに登場するver.4の機能について詳しく見ていきましょう。
急速に進展する自動運転領域の技術開発。追いつかない、人材確保と人材育成。スバルの解決策とは?
ver.4では、その開発スタイルも刷新されています。これまでの地道な社内開発から、思い切って社外のリソースをフル活用し、短期熟成・早期高機能実現を目指しているのです。
自動車メーカーは、こぞって電気系・システム系エンジニアのキャリア採用を進めていますが、社内戦力化するには時間を要しますし、そのレベルも専門企業に比較すればそれに勝るものでもありません。そこで、スバルは専門性が高く、能力に抜きん出たエンジニアを外部企業から招聘することで、その開発を急いでいるのです。
その雇用形態は実際的には派遣となりますが、非常に洗練された技能を誇る外部エンジニアが結集して、次世代アイサイト開発チームを組織。これをアイサイト専任の担当重役が統括しています。聞く処によれば、その能力は社内エンジニアの比ではないと言います。
気になるのは、「外注化」によるソフトウェアのブラックボックス化ですが、近代のソフトウェア開発はハードウェアのリソースに余裕があるため、ソースコード上のコメント等によって、誰が読んでも分かるコーディングを行うため、その点は問題は無いようです。
こうした、優秀な外部エンジニアの招聘は、自動車メーカー及びティア1にとって、共通の課題となっています。特に問題となるのが、その立地です。神奈川県に開発の本拠を置く日産やいすゞはマシとしても、トヨタやデンソーは愛知県西三河、スバルやホンダ、日野、ふそうは北関東に本拠を置いています。どうしても、テストコースと共に隣接するため開発拠点は、首都圏から遠くなってしまうため、その立地がネックとなって優秀な人材を集められないのです。
そこで、トヨタとデンソーは、都内に先進ソフトウェア開発の拠点構築を急いでいます。ただ、これとて一足飛びにはいきません。スバルはどうしているかと言えば、三鷹にあるエンジン系の開発拠点を活用しているようです。
公道試験をすべて廃し、社内テストコースのみで行われる次世代アイサイトの開発。
今回のver.4開発で変わった点として、実証実験が挙げられます。
初期のアイサイト開発では、レガシィ・ツーリングワゴンの荷室に機器を満載し、日本中を走り回ってデータを収集した苦労が、当時の開発者によって語られています。テストコース内では再現しきれないものは、少なくありません。リアルワールドで置き得るあらゆる事象を再現する努力をするならば、実際に公道試験をするのが一番、という訳です。
こうした公道試験は、これまで長らく行われてきたものでした。だからと言って、試行錯誤段階でプリクラッシュブレーキやレーンキープの作動確認をする訳ではありません。カメラやセンサーが所定の通りに対象物体を認識できているか、を確認するのが目的です。認識精度の確認のみならば、誰に迷惑を掛けるものでもありませんし、許認可が必要なものでもないからです。
しかし、スバルは、一連のリコール問題の最中に、未完成のADASで公道試験を行うのは不適切として、その全てを中止してしまいました。現在は、社内テストコースに再現した市街路のみの試験に切り替えています。
スバルは、2017年に北海道の美深試験場内に、高速道路の分岐や市街路等を模擬した試験設備を建設。また、葛生のテストコース内にも、市街路を模擬したエリアを設けています。これらを活用することで、公道試験に頼らずとも、ADAS用ソフトウェアの熟成を可能にしているのです。
鶏が先か、卵が先か?複雑・長期化する車両制御ソフトウェア開発。
制御ソフトウェアを開発するに際して、最大の障壁となるのが、「鶏が先か、卵が先か。」という問題。つまり、ハードウェアが無くてはソフトウェアは評価できず、逆も又しかり、という訳です。これでは、すべてが揃うまで開発はスタートできず、開発は長期化し、評価中に生じた問題によっては、開発の手戻りが絶望的に大きくなります。
ADASは、アクセル・ブレーキ・ステアリング等々、車両の統合制御を行います。センサー認識の評価は過去のセンサー情報があれば充分ですが、車両制御に関しては車両側のフィードバックがありませんから、評価できません。実車が完成した後でしか、ADASのソフトウェア開発が行えない、という事態に陥ります。
そこで活用されるのが、HILS(Hardware in the Loop Simulation)という技術です。PCソフトウェアの仮想空間上で走行試験を実施し、シミュレートされた車両信号の出力をECUユニットに入力。ECUで演算された制御信号の出力を、再びPCに戻します。こうしてループを形成することで、実機のECUを評価するのです。
ADASでこれを行うのなら、次にようになります。仮想空間上で試験車両を走行させつつ、これとリンクした「録画」済みのセンサー情報をADAS用ECUに入力。ADAS用ECUが演算した制御信号をPCに入力すれば、仮想空間上の車両が制御されて、フィードバックが発生。これを再び、ADAS用ECUに戻すことになります。これにより、ADAS用制御ソフトウェアの評価が可能になります。
ver.3までのアイサイトであれば、まさしくビデオを見せてやれば良いので、比較的簡単に評価できていたと思われます。ver.4では、ここに4個のレーダが加わりますから、これに対応するセンサー信号を追加してやらねばなりません。恐らく、スバルは4個のレーダを追加搭載した車両で、ステレオカメラ映像を録画しつつ、レーダのセンサー信号を「録画」。このデータを基に、ラボ内での試験評価を繰り返しているものと思われます。
ただ、最終的には技術を実証するための、公道試験は不可欠なはずです。2020年前半には、各地に新型レヴォーグが出没する可能性が高いでしょう。
ステレオカメラ+4つのレーダ。そして、高精度マップとロケーター。増えていくセンサーと、情報処理。
では、プレスリリースから、その新たなる機能を紐解いていきましょう。
「『あらゆるシーンで、運転の不安やストレスを減らし、心から運転を愉しむ』ために、新開発のステレオカメラと前後あわせて4つのレーダーで構成された新世代アイサイトを採用。加えて、高速道路上で利用可能な高精度マップ&ロケーターを活用した最先端の先進運転支援システムや、万が一の際につながる安心を提供するコネクティッドサービスを採用しました。」
文面の通り、ver.4ではセンサーが追加搭載されます。車載センサーはステレオカメラと4個のレーダに増加。これに加えて、確度の高い現在地情報を得るため、高精度マップとロケータを新たに採用します。
つまり、ver.4は「周囲360度のターゲットを常時把握しつつ、自車の現在地を常に正確に把握する必要がある機能」を実現するのです。これは大きな進化です。センサー情報が飛躍的に増加する上、現在地を地図上で常に追跡するとなれば、リアルタイムデータ処理は相当にハードになるでしょう。
これだけの機能拡張にも関わらず、コストアップはほぼ無視できる範囲に収まっているらしく、スカイラインのような数百万円単位での価格上昇とはならず、ほぼ現行と同じ価格範囲に収まると思われます。
現行レヴォーグは、メーカーオプションで後方警戒用にレーダを2個装備しており、新型はこれに前方用2個を加えたのみとなるうえ、GPSアンテナは既存のナビと共用可能です。ただ、高精度マップとエマージェンシーコールを維持するために、月額制のデータ通信費が加わる可能性は高いでしょう。
それでも、価格添加は僅か数万円で収まるはずで、それを考慮した上で日産のプロパイロット2.0と比較すれば、スバルの優秀性が大いに際立つことでしょう。
4個のレーダ追加のみで実現。全周囲安全とアフォータビリティの確保。
・新世代アイサイト(新開発)
広角化した新開発ステレオカメラと前後あわせて4つのレーダーによる360 ゚センシングによって、見通しの悪い交差点での出合い頭や右左折時まで、プリクラッシュブレーキ(衝突被害軽減ブレーキ)の作動範囲を拡大しました。
追加センサーに、カメラではなくレーダを選択した点は、特筆すべきでしょう。
カメラは、画像処理を高度化することで、対象物体の形状(=それが何であるか)と距離(=それが何処にあるか)を得られます。これに時間差処理を加えれば、対象物体の相対速度(=それがどう近づくのか)と未来予測(=それがぶつかるのか否か)が可能です。ただ、リアルタイムで複雑な画像処理を連続で行うため、高速大容量の専用ECUが不可欠です。
これに対し、レーダでは認識対象は導体に限られる上、対象物体の形状識別はできません。ただ、探知距離は圧倒的に長く、夜間でも変わらず物体を探知できる上、ドップラー処理により対象物体の瞬間速度も得られます。情報処理は、よりシンプルで軽く済むメリットがあります。
軍用機のAESA(アクティブ電子スキャンドアレイレーダ)のように、多数のレーダ素子を並べれば、対象物体の識別も可能です。しかし、自動車用レーダは、少数レーダ素子のみを使用しますから、対象物体の距離と速度は測定できても、対象物体の識別や不導体の探知は不可能と考えられます。つまり、何らかの物体が接近するとは分かっても、何がどのように接近するのかは分からないのです。よって、接近物体の未来予測は困難と考えた方が良いでしょう。
ver.4で360度全周警戒を行うに際して、マルチカメラによる全周警戒よりも、ステレオカメラ+レーダ×4を敢えて選択したのでしょう。日産がプロパイロット2.0に、3眼カメラ+レーダ×4+カメラ×7+ソナー×12を費やしているのとは、まったく対照的です。
ADASでは、性能追求ももちろん重要ですが、アフォーダビリティは更に重要なのです。オプション価格が高騰すれば、装着台数が限られるため、投資回収が不可能になるからです。スバルは過去にステレオカメラにレーダを追加した結果、オプション価格が高騰して手痛い失敗をしており、価格と性能のバランスは極めて重要だと考えたのでしょう。
過度なアセスメント対策が、ユーザに実益のない技術開発を誘発する?
4個のレーダ追加に伴う機能拡張は、「見通しの悪い交差点での出合い頭や右左折時への対応」としています。
新型レヴォーグでは、前後左右の各コーナーのバンパー内側に、45度方向に向けてレーダユニットが設置されます。見通しの悪い交差点でも、鼻先さえ出せれば、ドライバーの視野外から接近する物体を探知できるという訳です。ただ、ver.4ではカメラは前方のみで、側方警戒はレーダのみが担います。
これらを考慮すれば、現行の後方警戒システムと同様に、あくまでも補助的に作動するものと考えた方が良いのかも知れません。特に、自転車・歩行者に対する探知性能は、まったく未知数です。ただ、前方のヘッドライトの照射範囲内に限られていたプリクラッシュブレーキ作動範囲が、360度全周に広がるのですから、大いなる機能拡張には違いありません。
海外製に新たに換装されるステレオカメラは、その視野角が拡大されます。これにより、これまでアセスメントで不得意とされてきた、横から飛び出す自転車・歩行者等に対する対応力が、劇的に改善されるものと思われます。
ただ、これもまた万能ではないでしょう。例えば、脇道から接近する自転車をご想像下さい。自転車がブレーキを掛けるのは、いつも停止線ギリギリです。この自転車の動きを、停止線で止まる数秒前の時点で未来予測するとすれば、自転車は止まらぬまま走行車線に進入する予測が導かれます。
これでは、プリクラッシュブレーキを度々作動させねばならず、人混みの市街路なぞ全く前に進めなくなります。
にも関わらず、現在のADASのアセスメントでは、すぐ側方から接近する歩行者に対する試験を義務付けています。そのため、メーカーはアセスメントの試験時には作動しても、現実には「作動しないように」躾けておく必要が生じます。これでは、本末転倒です。アセスメントは、何でもかんでも厳しくすれば良いのではありません。よりリアルワールドに即した試験項目とすべきでしょう。