2022年ルマン24時間。間もなくスタート。トヨタ5連覇なるか。 [2022年06月11日更新]
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トリプルクラウンのひとつ、ルマン24時間レース。その魅力とは。
夏至の週末。フランスで最も日が長い、この季節。パリから南東に約200kmある地方都市に、世界中から人々が押し寄せます。ルマン24時間レース、それは世界で最も権威ある耐久レースです。F1モナコGP、インディ500とともに、トリプルクラウンの一つに数えられる、このレース。1923年以来、1世紀の長きに渡って世界中の人々を魅了し続けてきました。
2022年は1強のトヨタに、米製グリッケンハウスと、型落ちのアルピーヌが競う、寂しさ拭えぬ昨年同様の構図。しかし、2023年にはプジョー、ポルシェ、キャデラック、フェラーリが登場。2024年以降は、アキュラ、BMW、アルピーヌ、ランボルギーニの登場が期待されています。
2017年にポルシェが撤退して以降、ルマンに参戦するワークスはトヨタのみ。カーボンニュートラルの流れが、OEMのモータースポーツ関連予算を削り、活動縮小・撤退に至らしめたのです。その中で、トヨタは唯一の牙城として、ルマンの権威と伝統を守り続けてきました。しかし、2020年代に入り、主催団体のACOとFIAが新規定を発表すると、様々なOEMがルマン復帰を次々に発表したのです。
なぜ、OEMはF1ではなく、ルマンを目指すのでしょうか。
ブランドの名声を確立してきたのは、F1ではなく、ルマン。
ベントレー、アルファロメオ、ブガッティ、ジャガー、メルセデス、フェラーリ、フォード、そしてポルシェ。世界に名だたるブランドの数々は、ルマンを制することでその名声を確立してきました。そう、奇妙なことにF1ではないのです。
それは、F1がドライバーとコンストラクターのためのチャンピオンシップだからです。かつてのブラバムやティレル、今日のレッドブルを見て分かるように、F1を制するのはメーカーとは限りません。1960年代、低迷の時代を迎えたF1を盛り上げたのが、次々に現れるバックヤードビルダーたちでした。彼らは、自らマシンを設計・製作。市販エンジンと組み合わせて、F1に参戦。BRMやロータス、クーパーらが、伸び盛りの若手プロドライバーを擁して、唯一のメーカーチーム・フェラーリと覇を競い、選手権の規模を拡大していったのです。そうした歴史があるため、F1では常にドライバーとコンストラクターに重きが置かれているのです。
一方、ルマンの歴史を紐解くとき、プライベートチームが優勝したことはあっても、コンストラクターが自製マシンでルマンを制した事例は殆どありません。唯一の事例が、1980年のロンドー。ジャン・ロンドーは、史上唯一自らの名を関したマシンでルマンを制したドライバーでもあります。
ルマンは、常にメーカーの技術力を競う場であり続けました。24時間をハイスピードで戦い抜くには、最高の技術力と最高の品質、そして最高の体制が不可欠。だからこそ、ルマンはメーカーの技術的優位性を示す格好のフィールドとして、尊重されてきたのです。
すべてが完璧でなければ、成功できない。偶然と幸運は一切ない。
1996年のF1モナコGPは、近年最も混乱したレースとして知られています。優勝候補と目されたドライバーが次々にリタイヤ。チェッカーを受けたのは、たった3台のみ。ここで初勝利を挙げたのが、リジェ・無限を駆るオリビエ・パニス。これは、リジェにとっても、パニスにとっても、最初で最後の勝利。偶然と混乱がもたらした、史上稀に見る棚ボタ勝利となりました。
ところが、です。なぜでしょうか、ルマンではこのような事例は殆どありません。1995〜1997年は、多少混沌とした展開となりました。それでも、勝者は優勝候補。終わってみれば、至極当然の結果に終わりました。ルマンでは、幸運に浴して勝利する、いわゆる棚ボタは決してあり得ないのです。
その最大の理由は、走行時間と走行距離です。騙し騙し走れるのは、精々3時間。24時間・5,000km近くを走破するとなれば、僅かな綻びをきっかけに壊れないものも壊れ、想像だにせぬトラブルに次々見舞われることになるのです。まるで、見透かしたかのように、挑戦者を追い込んでいくのです。ルマンには、魔物が棲んでいる。そう言われる所以は、そんな所にあるのでしょう。
魔物の餌食になると分かっていて、なぜ人々はルマンに挑むのでしょう。徹底的な屈辱を味あわされると知って、なぜルマンを目指すのでしょうか。
ルマンは、総合力の戦いです。優れたマシン、盤石の体制、徹底したマネージメント、抜け目ない準備、完璧な作戦、確実なオペレーション、困難に打ち克つ対応力、素早く対処する即応力。その全てがファクトリー、チーム、ドライバー、支援体制に至るまで、首尾一貫せねばなりません。そして、それら全てが最高の水準に達したとき、漸く勝利に手が届くのです。だからこそ、全てを達して勝利を掴んだとき、その喜びは格別なものとなり、永代語り継がれる栄誉となるのです。
2022年、トヨタ最後の負けられない戦い。来年以降は乱世の予感。
2017年に撤退以後、勝利を重ねてきた唯一のファクトリーチームである、トヨタ。それは、決して敗北が許されない、厳しい戦いの連続でした。群雄割拠の乱世を目前に、トヨタは今年、最後の「負けられない戦い」に挑みます。
昨年は、幾度も燃料ポンプ系統のトラブルに見舞われ、ルマンでも薄氷の勝利となったトヨタ。ところが、今年も不安材料盛り沢山のルマンとなりそうです。
2022年WEC開幕戦セブリングでは、7号車が周回遅れと接触。その後、スロー走行中にクラッシュして全損。ルマンの前哨戦となるスパ6時間では、8号車にトラブルが発生。リタイヤに終わっています。その原因は、何とコンバータ。これまで、トヨタはハイブリッドのメイン系統にトラブルを抱えることが少なかっただけに、大きな不安材料となっています。
第3戦となるルマンでは、3回目のフリープラクティス中に電気系統にトラブルが発生。再起動の手順を間違えたために、ピットで修理作業が必要になりました。ルマンでは、僅かな綻びが重大なトラブルに直結します。ドライバーの平川は、シミュレーションで行っていた復帰手順を間違ったとコメントしています。平川は、今年加わった新たなドライバー。彼の習熟の機会が不十分であったことを伺わせます。
決戦は、間もなく。期待に胸高鳴るスタートは、日本時間11日23時。そして、24時間後の6月12日午後11時。2022年ルマン24時間は、如何なる結末を迎えているのでしょうか。