2023年ルマン24時間総括。トヨタの連勝記録途絶える。 [2023年07月23日更新]

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2023年ルマン24時間完全総括。
 
2023年7月23日 トヨタとフェラーリの激闘とBoP調整。

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文責:スバルショップ三河安城 和泉店

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担当:余語

 

WEC2023年シーズン前半戦は、トヨタが圧倒的強さを発揮。



鬱陶しくも涼しさ恋しい梅雨は、今は昔。時は、早々と夏本番。さて、100周年記念大会と銘打たれ、去る6月10〜11日に開催された今年のルマン24時間レースは、突然の恣意的なBoPアップデートという暴挙によって、実に滑稽なレースとして記憶されることとなるでしょう。

WEC2023年シーズンは、最高峰クラスHypercarに絶対王者トヨタと、昨年終盤から参戦したプジョーとプライベータのグリッケンハウスが、引き続き参戦。これに新たに、フェラーリ、ポルシェ、キャデラックと3メーカーとプライベータのヴァンウォールを加え、5ワークス・2プライベータが勢揃いし、開幕戦を迎えました。第1戦セブリング、第2戦ポルティマオ、第3戦スパでは、トヨタが圧倒的な強さを見せて3連勝。このトヨタに一矢報いたのがフェラーリで、そのスピードでは徐々にトヨタに接近しつつあり、キャデラックも底堅いパフォーマンスでこれに続きます。一方、苦戦続きはポルシェとプジョー。6時間レースでもレース半分で周回遅れになり、完走も覚束ない惨状。巻き返しを期待したい処ですが、シーズン中の開発・仕様変更が厳しく制限されているため、状況は殊に深刻です。

WECの次なるステージは、スポーツカーレーシングの聖地ルマン・サルテサーキット。100周年記念大会という名誉を賭けた、ハイレベルの闘いが期待されていました。ポルシェの7連勝(1981〜1987年)、フェラーリ(1960〜1965年)の6連勝を目指し、2018年以来ルマン5連勝中のトヨタ。50年ぶりのトップカテゴリー復帰に際し、万全の準備を整え、スピードでは完全にトヨタを凌駕したフェラーリ。ルマンでは両者の拮抗した闘いが期待されました。

不可思議だったのは、苦戦続きで敗北濃厚な2メーカーが意気揚々とスペシャルデザインを発表したこと。プジョーはルマン100周年を記念したスペシャルデザインを、ポルシェは創立75周年を記念したスペシャルカラーリングを発表したのです。その疑念は、ルマンウィークを目前に明らかになります。

 

突如発表された、恣意的なBoPアップデートの内容。

100周年に相応しい、正々堂々熾烈な戦い。その期待を粉々に打ち砕いたのは、ルマンを統括するACO・FIA。彼らは、予定にも、規定にもないBoPアップデートを突然発表したのです。5月31日に発表されたこのBoPフォーマットは、最大出力こそ変化ないものの、最低重量と各スティント毎の総エネルギー量の変更を伴うもので、想像を絶する恣意的内容。開幕戦から着実な成績を残してきた3つのメーカーに対し、理不尽な性能調整を強行したのです。

・トヨタ・GR010 最低重量:1080kg(+37kg※カッコ内は第3戦スパ比)、各スティント毎の総エネルギー量:908MJ(+4MJ)、最大出力:512kWで、フェラーリ・499Pは最低重量:最低重量:1064kg(+24kg)、総エネルギー量:901MJ(+2MJ)、最大出力:509kW。安定したパフォーマンスを発揮してきたキャデラック・V series.Rは、最低重量:1046kg(+11kg)、総エネルギー量:904MJ(+1MJ)、最大出力:513kW。これに対し、ポルシェ・963は最低重量:1048kg(+3kg)、総エネルギー量:910MJ(±0MJ)、最大出力:516kW、プジョー・9X8に至っては最低重量:1042kg(±0kg)、総エネルギー量:908MJ(±0MJ)、最大出力:516kWという優遇処置。

トヨタはポルシェに対して34kg、プジョーに対して37kgものハンデ。ライバルたるフェラーリに対しても、13kgものハンデを課されたのです。ところが、実際にはプジョーには更なる優遇処置がありました。9X8のハイブリッドが150km/hから作動可能なのに対し、GR010と499Pは190km/h以上に制限されていたのです。

最高峰カテゴリーとなるLMHは、過度な開発競争によって崩壊したLMP1を教訓に、BoPによる性能均一を原点として生み出されたものです。それ故、各メイクスは出る杭は打たれることに同意した上で、これにエントリーしています。しかし、5月31日付けの突然のBoPアップデートは、レギュレーションに規定されたものではありませんでした。そのうえ、WEC側はルマン前のBoPの再調整はないと、事前に宣言していたのです。それを覆しての、突然のBoP変更。6月4日のテストデイを目前にして、2023年のルマンはいきなり「滑稽なハンデ合戦」と化したのです。

 

耐久レースでは、絶対性能の差がパフォーマンス差にあらず。

BoPは、FIA・ACOによって収集される精細なパフォーマンスデータを元に評価を行っており、絶対的な出力やコーナリングスピードだけで安直に評価している訳ではありません。つまり、彼らはLMHクラス各車の純粋なパフォーマンスの抽出に確信を持っており、これを根拠にBoPを調整しています。

しかし、耐久レースでは、1周の単純なスピードだけでパフォーマンスを評価するのは不可能です。それは、決勝でのリザルトに対する予選グリッドの影響度が低いのが理由。耐久性、信頼性、ストラテジー、オペレーション、ロジスティクスとありとあらゆる要素が大きく作用します。そのため、レースウィークでは決勝で安定したパフォーマンスを発揮するべく、絶対的なパフォーマンスよりも、タイヤの摩耗やコンディション変化への対応、燃費の最適化を最優先にして作業を進めます。つまりは、耐久レースはマネージメントの戦いなのです。

通常のWECイベントは、3回のフリー走行と予選、決勝で構成されます。その中で、マシンのあらゆる側面の最適化を進め、決勝を迎えます。もし、決勝へ向けた最適化が不十分ならば、予選セットアップを進める余裕がないまま、予選を迎えることとなります。ただ、それは単純なマシンパフォーマンスの結果ではありません。マネージメントに不備があるがための結末です。

トヨタとフェラーリが絶対的に高いパフォーマンスを発揮できるのは、優れたマネージメントにより余裕を以て最適化を進められているからであり、多発するトラブルの対策に追われるポルシェやプジョーは、充分に最適化が進められていないのです。

ただ、それを以てBoPを変更するのはおかしな話です。これでは、完成度の低いマシンを開発し、マネージメントが悪いチームが得することになるからです。BoPを前提とするLMHクラスであっても、あくまで対象は純粋なパフォーマンスに限定するべきであり、オペレーションの影響は除外して評価すべきです。でなければ、プアなチームが優遇処置を活かして先頭を走るも、トラブルを多発させてリタイヤ・・・。極端に言えば、プアなチームが奇跡的に完走すれば優勝という、実に滑稽なレースが展開されることになりかねません。

でも、ルマンでは心配ありません。女神がすべてを見てくれているからです。

 

屈辱のBoPに巻き返しを図るトヨタと、怒りを顕にする会長氏。

ルマンウィークのオープニングは、6月4日のテストデイ。公道を含むサルテサーキットが姿を表わすのは、この1週間のみ。限られた走行の機会を求めて、各チームは作業を進めます。

この日の2回のフリー走行で、BoPの効能は早々に明らかになります。1回目のフリー走行で、フェラーリが1・4位のタイムを刻む一方、トヨタは5・8位に低迷。その一方、2位にプジョー・94号車、3位にプライベータポルシェのJOTA・38号車が食い込みます。ただ、プジョーの1台とポルシェの1台には早々にトラブル発生しています。続く2回目のフリー走行では、トヨタ7号車が3位に食い込んだものの、ベストセクタータイムでは6位。8号車に至っては、1位のフェラーリ51号車から1.5秒遅れ。好調を維持するフェラーリ勢に対し、トヨタ勢の劣勢は明らかでした。

100周年を迎えて華やかなサルテサーキット。その中で、約束にないBoPアップデートに怒りを顕にしたのがトヨタ自動車会長氏。これまで唯一のワークスとして5年に渡ってルマンを支えてきたトヨタは、100周年記念大会とルマンの未来に最大限のコミットを示すべく、TS050とGR010を2台稼働状態で持ち込んでパレードランに参加させた他、2026年を目指した水素燃料のコンセプトモデルを発表。晴れがましい1日に、これ以上無い華を添えました。にも関わらずの、BoPアップデート。

会長氏は、会見で幾度かBoPに言及した上に、「そこまでして、他のチームに勝たせたいのか。」と爆弾発言。さらには、ACOのフィヨン会長との握手を拒否。トヨタ陣営として、最大限の不満を表明しています。海外では、お人好しであることに意味はありません。明確に不満を示すことは、トヨタ陣営の総帥として当然の行為でしょう。

恣意的BoPの効果は、既に誰の目にも明らかでした。フェラーリは遥か彼方、今やキャデラックに先を越され、ポルシェ・プジョーと五分五分。しかし、トヨタ陣営は諦めません。決勝スタートまで、残り6日。3年目を迎えたGR010から、パフォーマンスを絞り出すべく、奇跡的な最適化を進めていくのです。

 

トヨタ、フェラーリに及ばず。予選では致命的な1.5秒差。


6月7日、1回目のフリー走行でトヨタ勢が1・2番手を独占。但し、フェラーリ陣営はシステムチェックに専念していたため、双方のパフォーマンス差は分からぬまま。ただ、トヨタ・GR010は、キャデラック、ポルシェ、プジョーを僅かに上回るパフォーマンスを発揮しつつありました。同日の予選セッションでも、やはりと言うべきか、フェラーリが1−2と圧倒的なスピードを披露。0.5秒以下の僅差でトヨタが3・4番手。これに、ポルシェ5号車、キャデラック3号車、2号車が続き、トップ7台が1秒以内という僅差。

翌8日、フリー走行3回目。またしても、フェラーリが1-2。トヨタが3・4番手で続くも、その差は約1秒。決勝では、ラクラク振り切られる差です。不気味なのはポルシェとキャデラックで、トヨタ勢と1秒以内にまでペースを上げてきています。

上位グリッドを決める、ハイパーポール。夜間の走行となるこのセッションで、フェラーリはさらにペースアップ。ポールを獲得した50号車と3位8号車の差は、何と1.5秒。決定的な差が付きつつありました。予選4番手にはポルシェ・75号車が入り、トヨタ勢の一角を崩すことに成功します。

ただ、全てのセッションをトラブルフリーで走り切るトヨタ、フェラーリに対し、ポルシェ、プジョーはトラブル続き。特に、ワークス3台、プライベータ1台を持ち込んだポルシェは深刻。必ず1台がピットで作業中のような状況での4台体制は、明らかに過剰。一体誰が、この無謀なオペレーションを強行したのでしょうか。ただ、プライベータへの市販を前提とするHypercarで、それに唯一コミットしたのがポルシェ。これに対するWEC側の配慮が、このBoPだと勘繰ることは不自然でしょうか。

決勝を控えたこの時点で、フェラーリ勢の優位は明らかでした。トヨタ陣営はセットアップを着実に進め、限界までそのポテンshるを引き出したものの、これが限界。1秒に達するペース差は、既に絶望的なものになっていました。BoPアップデートは、明らかに失敗でした。フェラーリへのハンデが軽過ぎたのです。

ところが、決勝の10日夜は雨予想。更なる波乱を混乱が巻き起こるのは必至でした。

 

気まぐれなルマンの女神は、誰に鉄槌を下し、誰に微笑むのか。



6月10日午後4時。100周年記念大会の火蓋は切って落とされます。プライベータを含め、15台ものLMHが一気にダンロップシケインになだれ込んでいきます。ここで、ポルシェ・75号車がトヨタ・7号車のリヤにヒット。事なきを得たトヨタ勢はソフトタイヤを武器にペースを上げ、次々にフェラーリ勢を交わし、序盤を優位に進めていきます。

4時間半経過、たっぷりの優遇処置を得て上位を快走するポルシェ勢に、早々にトラブルが襲い掛かります。6号車は、右リヤに異常を抱えスロー走行でピットへ。続いて、ハイペースで飛ばし、トップ快走中の38号車がポルシェカーブでクラッシュ。さらに、5号車もトラブル発生。相次いで修復を余儀なくされます。そして、6時間を過ぎた頃、唯一トラブルフリーの75号車がストップ。そのままリタイヤとなります。世界に冠たる耐久王ポルシェは、序盤で早くも総崩れ。ロビー活動で勝利したものの、肝心の本戦では完敗。創立75周年のスペシャルデザインも、降り出した雨に虚しく輝いています。

そして、夜半から激しさを増した雨が、フェラーリとプジョーの明暗を分けます。まず、コースアウトしたのは、プジョー・93号車。ミュルサンヌでサンドトラップにハマった93号車は救援に2周を要し、優勝戦線から離脱。続いて、コースアウトしたのはフェラーリ・51号車。こちらは、幸いすぐにコースに戻ることが出来たため、1周も遅れることなく5番手でレースに復帰。しかも、マシンには何の損傷もなく、すぐにペースを取り戻し、追走を開始します。最終的にこの51号車が優勝するのですから、この時点でルマンの女神の意思は明らかだったのかも知れません。

ルマンには、女神がいる。気まぐれな迷信を、人々は真剣に信じています。なぜなら、そうとしか考えられない出来事が次々と起こるからです。女神のお気に入りは、ひたむきな努力をする謙虚な挑戦者。最も嫌いなのは、努力を怠り、裏工作で優位を得ようとする者。その一方で、ルマンの女神は気まぐれ。人々は女神に振り回され、幾度涙を流しても、またここに集ってしまうのです。デイトナとも、スパとも、ニュルとも違う。畏れ多き、ルマンの女神。だからこそ、人々はルマンに魅せられてしまうのです。

 

BoPで優遇されたポルシェ、プジョーは夜半までに総崩れ。



8時間経過、これまで微笑み続けてきたルマンの女神は、トヨタに非情の裁定を下します。スローゾーン手前で多重クラッシュが発生。これを見て減速したトヨタ・7号車に、LMP2が追突。左右ドライブシャフトが折れた7号車は、僅かに前進に成功したものの、ピットへの帰還は叶わず。レース折返しを待たずに、優勝候補の一角が崩れます。ウェットでは1080kgが仇を成し、ペースが上がらぬ中でのリタイヤ。トヨタ敗色濃厚・・・。しかし闘志を絶やさぬ彼らに、女神は再び微笑むのです。

9時間経過、ポルシェ・5号車がガレージに運び込まれ、再び修理作業を開始。女神の思し召しでしょうか、ポルシェ勢はこの後もトラブルを多発させ、下位に沈んでいきます。続いては、ルマンの女神の気まぐれでしょうか。4番手走行中のフェラーリ・50号車もガレージへ運び込まれます。修理にたっぷり6周を要し、レースに復帰したものの、優勝戦線からは完全に離脱。これで、トヨタ、フェラーリ共に一角を削られ、1台ずつで雌雄を決することとなります。

この時点でトップを快走するのは、驚きのプジョー・94号車。9X8が絶好調なのは、彼らの努力よりも、恣意的なBoPが理由。499Pよりも24kg、GR010より37kgも軽いだけでなく、150km/hからAWDとなる9X8がウェットで絶対的に有利なのは自明の理。これまでの体たらくが嘘のように、水を得た魚の如く94号車はトップを快走します。

ところが、おとぎ話もここまで。11時間経過、雨中を快走していた94号車が第一シケインでクラッシュ。フロントからガードレールに突っ込んで大破。這々の体でピットに戻ると、大修復作業が開始されます。これで、プジョー2台、ポルシェ4台は周回遅れとなり、優勝争いから脱落します。ルマンの女神はやはり、努力を怠る者に厳しいのです。

レース折返しを迎えて、24時間レースは後半戦に突入。トップはフェラーリ・51号車、これに僅差で続くのがトヨタ・8号車。3番手は、手堅いレース展開で順位を上げてきたキャデラック・2号車。4番手にポルシェ・6号車を挟んで、キャデラック・3号車がつけています。

蓋を開けてみれば、上位を占めるのはBoPで不遇をかこった面々。ルマンの女神は、やはりロビー活動で企むようなチームがお嫌いなのでしょう。ポルシェ、プジョーは完全に狙い撃ちにされて、見事に総崩れ。BoPアップデートは、全くの徒労に終わったのです。

 

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