スバルの航空宇宙事業の現状〜UH-2、V-22、F-X〜 [2021年10月02日更新]

スバル
 
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2021年秋、スバルの航空宇宙事業の現状。
 
2021年10月2日 陸上自衛隊:UH-2/V-22、航空自衛隊:次期戦闘機

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文責:スバルショップ三河安城 和泉店

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担当:余語

 

ボーイングと自衛隊に支えられる、伝統あるスバルの航空宇宙事業の現状。

FHIという名称をご存知でしょうか。GC8にタワーバーを装着している方なら、そのロゴをご覧になった事があるかも知れません。「Fuji Heavy Industry」すなわち、富士重工業の略称です。これは、かつて富士重工が航空産業に用いていた略称でした。

日本の航空産業で主幹を成すのは、次の7社。三菱重工(MHI)、川崎重工(KHI)、スバル(旧中島飛行機)、新明和工業(旧川西航空機)、ホンダ。そして、IHI(旧石川島播磨重工)、日本飛行機です。これらのうち、自社製品として航空機そのものを生産しているのは、MHI、KHI、スバル、新明和、ホンダ。大戦以来の歴史を有し、自衛隊機の生産・納入を行うのは、MHI、KHI、スバル、新明和。また、完全自社開発の航空機生産を継続しているのは、MHI、KHI、新明和、ホンダの4社です。

日本の航空産業は、基本的にボーイングと防衛省の存在無くして成立しません。スバルは、その恩恵を最も強く受けているメーカーだと言えるでしょう。スバルの航空宇宙事業の主力製品は、愛知県で製造されるボーイング向けの中央翼と、陸上自衛隊向け回転翼機のライセンス生産。かつては、自衛隊向け初等練習機を得意としていましたが、直近は更新が途絶えています。

 

陸上部隊の支援に欠かせない多用途ヘリコプター。UH-1の陸上自衛隊への導入の経緯。

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現在、スバルが機体生産を出掛けているのが、陸上自衛隊向け多用途ヘリコプター「UH-2」です。

多用途ヘリコプターとは、陸上部隊に対して軽輸送、負傷者後送、連絡、観測、近接航空支援等を行うもので、高い運動性を有する中型ヘリコプターが用いられます。

1955年、朝鮮戦争に於ける戦訓を受け、米陸軍はベル社のモデル「204」をベースとする世界初の多用途ヘリコプター「UH-1(〜1962年:HU-1)」の導入を開始します。ベトナム戦争では一部機体がガンシップ化されるなど、前線で大きな威力を発揮。「UH-1」シリーズは世界各国で次々に採用され、逐次改良を重ねつつ、進化を遂げていきます。

我が国では、1962年にモデル「204B」をベースとした「UH-1B」の導入を決定。これを受注したのがFHIで、1972年までに計90機をライセンス生産。続いて、1972年にはエンジン及び機体を大型化した「UH-1H」の導入を開始。これも、FHIが1991年までに133機を納入します。さらに、1993年からはエンジンを換装した「UH-1J」を導入。FHIは、2007年までに計130機の納入を完了します。

1990年代始め、陸上自衛隊は「UH-1H」に続く多用途ヘリコプターとして、米陸軍が導入中の「UH-60」ブラックホーク(MHIによるライセンス生産)の導入を決断。1995年以降、調達を開始します。ところが、「UH-1H」の1機あたりの調達価格が約12億円なのに対し、「UH-60JA」は約37億円にも達することから、予算確保が難しく、導入は著しく遅滞。そこで、2013年を以て調達を終了し、以降は両機のハイローミックスへと計画を変更するに至ります。

2010年、防衛省は次期多用途ヘリコプター「UH-X」の調達を決定します。これに勝利したのは、観測ヘリ「OH-1」を母体とするKHIの機体案。ところが、2013年1月に談合問題により契約は一転破棄され、調達計画は一旦白紙に戻されてしまいます。

「UH-X」が足踏みする間、状況は切迫の度合を深めていきます。「UH-1H」が全機退役、小型ヘリ「OH-6D」も全機退役。「UH-1J」にも機体寿命が尽きる機体が現れたのです。2015年7月17日、紆余曲折の末、漸く「UH-X」が決します。選定されたのは、ベルとスバルが共同開発する「412EPX」ベースの機体案でした。

 

エンジンを双発化し、信頼性・生存性の向上を図った、スバルのUH-2/412EPX。

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1959年に米陸軍が運用を開始したベル社の主力ヘリ「204」シリーズは、胴体を40cm延長した「205(UH-1D:1963年)」へ発展。この「205」を出力強化したのが、「UH-1H(1967年)」です。陸上自衛隊の「UH-1H」は、この発展型で「205B-2」と呼ばれます。

ここに新たに顧客に加わったのが、米海兵隊。ただ、彼らは洋上飛行を前提に、エンジンの双発化を求めます。そこで採用されたのが「UH-1N」で、カナダ空軍向けに開発されていた「212(1968年)」をベースとした機体でした。この「212」の発展型が、1979年に初飛行した「412」です。「412」は複合材製4枚ロータを採用し、巡航速度を40km/h高速化、タンク容量も50%増加しています。「412」は暫時改良され、「412SP(燃料搭載量・離陸重量を改良)」、「412HP(変速機を改良)」、「412EP(デジタル自動飛行制御システムを搭載)」、「412EPI(デジタルエンジン制御システムを搭載)」と発展を遂げていきます。

「412EPX」は、ベルとスバルによる共同開発機であり、「412EPI」の発展型です。メインローターギアボックスの強化、トランスミッションの出力向上、ドライラン能力の向上を図っています。ドライラン能力とは、トランスミッションの潤滑油を全て失った状態でも飛行を維持する能力で、機体の信頼性・生存性を向上を目的とするものです。

試作機である「XUH-2」は、宇都宮製作所で2018年12月に初飛行。以降、開発作業は順調に進み、2021年6月24日には正式に部隊使用承認が成され、「UH-2」の制式名称が付与されています。「UH-2」の調達価格は1機あたり約12億円。機体単価を維持しつつ、信頼性向上を図った機体となっています。

一方、民間需要向けの「412EPX」はコスト低減を図るため、ベルでは一切生産を行わず、「UH-2」と共にスバル宇都宮製作所で一括生産されます。2019年6月18日には、警察庁から初受注。今後も、大いに需要が期待されます。

スバルは「204」以来、400機以上をライセンス生産。日本国内では累計1,500機以上のベル社製ヘリが納入されています。2018年1月18日、スバルは「412EPX」及び「UH-2」の整備能力拡張を目的に新建屋を建設。旺盛な整備需要に対応すべく、体制強化を図っています。

 

日本飛行機と共に、日本に配備されるV-22オスプレイの整備業務を受託したスバル。

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2015年10月、スバルは国際入札により、千葉県の木更津駐屯地内に於ける「V-22」オスプレイの整備業務を受託。2021年7月には、日本飛行機が厚木基地隣接地の自社工場での整備契約を締結しています。日本の「V-22」は今後、木更津と厚木の2拠点・2企業で整備されることとなります。

日本に配備される「V-22」は、米海兵隊強襲揚陸艦に搭載される普天間基地所属の「MV-22」、米空軍横田基地所属で特殊作戦用の「CV-22」、陸上自衛隊所属の「V-22」の3タイプ。この他、開発中の米海軍向け艦載輸送機型「CMV-22B」が実用化されれば、岩国基地所属のCVW-5に何れ配備されることとなるでしょう。

日本ではマスコミから「欠陥機」の烙印を押されている、「V-22」オスプレイ。しかし、その危険性のみを過大に書き立てるのは、余りに恣意的です。VTOL(Vertical TakeOff and Landing)機は、回転翼機の如く垂直離着陸を行い、固定翼機の如く高速巡航を行う。空を志す者ならば、誰しもが夢描く、理想の航空機です。VTOL機が身近な存在となれば、地方空港は不要となり、市街地に近接したヘリパッドから、大都市空港まで簡便に移動が可能になります。また、大規模災害時にはVTOL機がその性能を発揮し、人員・物資の輸送に大いに貢献するはずです。

 

回転翼機と固定翼機双方のメリットを備える、VTOLティルトローター機V-22。

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「V-22」は、左右2基の回転翼軸を回転させるティルトローター機。エンジンナセルごとローター回転面を回転させることで、回転翼モード、固定翼モード、その中間の転換モードを任意に切り替えて飛行することが可能です。各モードの変換速度は、8°/sec。90°回転されるのに、11秒を要します。

回転翼モードでは、ヘリコプターと同様にローターのみで揚力を得ます。ホバリング及び垂直着陸が可能で、積載量が少ない状態では垂直離陸も可能です。固定翼モードは、プロペラ機同様に主翼で得る揚力を活用することで、ヘリコプターでは不可能な高速長距離巡航・高高度飛行を実現します。転換モードはエンジンナセルは1〜84°の状態。離陸時の加速及び着陸時の減速に用いられます。短距離離陸の際は75〜60°に設定されます。

回転翼機と固定翼機の利点を兼ね備えた「V-22」は、巡航速度565km/h、フェリー航続距離3,593km、実用上昇限度7,925mを誇ります。これに対し、大型輸送ヘリ「CH-47」は、巡航速度260km/h、フェリー航続距離2,252km、実用上昇限度2,670m。VTOL機ならではの、圧倒的性能は明らかです。小笠原諸島、南西諸島など滑走路を持たない離島からの長距離緊急医療搬送、ホバリング限界高度3,139mを活かした山岳地での救助活動等、これまでヘリコプターでは不可能だった運用が可能になります。

「V-22」は、4,586kWに達する強力な2基のターボシャフトエンジンを搭載しています。左右のプロペラ回転軸は主翼内のシャフトで連結されており、回転翼モードで出力を失った場合でも、1基の出力で飛行を維持することが可能です。2基共に出力を失った場合、固定翼モードでは滑空により緊急着陸を実施します。回転翼モードの場合は、オートローテーションと呼ばれる取扱いにより、緊急着陸を実施します。

 

航空技術者の理想の機体、ティルトローター機の開発史は苦難の連続だった。

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「V-22」の開発は、苦難の連続でした。痛ましい事故により、多大な犠牲が生じているのです。

ティルトローターの研究は、1940年代にベル社によって始められます。1955年には試験機「XV-3」がホバリングに成功。翌年には、ロータを傾けた状態での飛行にも成功します。その後、1971年にNASAが米陸軍と共同でティルトローター機「XV-15」の実機試験を開始。1979年にはローターを完全に前方に倒した状態での飛行に成功しています。

これらの成果を受け、1982年に国防総省は4軍共同の統合垂直離着陸研究「JVX」をスタート。ベルはボーイングと共同で「JVX」の受注に成功します。1986年、海兵隊向け「MV-22」の全規模開発機(FSD)6機の製造を開始。1989年に初飛行を実施しています。ところが、1991年、1992年にFSD機が相次いで事故を起こしたことで、計画は大きく遅滞を生じます。

1994年、事故の直接的原因となった技術的問題は充分に解決されたと判断した国防総省は、量産試作機(EMD)4機の製造を承認。1997年には、低率初期生産(LRIP)を承認します。ところが、2000年にLRIP機が相次いで墜落事故を起こしてしまうのです。

「V-22」は、その開発過程に於いて42名という甚大な犠牲を生じたことから、欠陥機の烙印を押されることとなります。ティルトローターのVTOL機という世界初の技術的挑戦であるとは言え、21世紀に於いては人的被害は決して許容されるものではありません。その結果、「V-22」には今に至るまで常に厳しい視線が注がれ続けています。

事故が相次いだ「V-22」ですが、逐次改良を施すことにより、技術的課題を克服していきます。その結果、現在では「MV-22」の10万時間あたりの平均事故率は、海兵隊所属の航空機平均を上回っており、信頼性の高い機体へと改善・改良が進んでいます。

 

V-22を墜落の危険に貶めるボルテックス・リング・ステートは、ヘリコプター共通の問題。

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開発段階で「V-22」を墜落に至らしめたのは、ボルテックス・リング・ステート(VRS)と呼ばれる現象です。

メインローターによって揚力を得る回転翼機では、自身が作る下向きの気流(ダウンウォッシュ)に巻き込まれることを防ぐために、必ず降下率に制限が設けられています。もし、降下率制限を破って降下した場合、機体は揚力を失って墜落する危険性があります。ただ、これは「V-22」に限った問題ではなく、全ての回転翼機共通の問題である点を忘れてはなりません。

回転翼モードで飛行中、降下速度が制限を著しく超過すると、ローターブレード中心部付近に上向きの流れが生まれ、ローター中心部が失速。この上向きの流れが、ダウンウォッシュとリング状の循環を形成。循環は加速度的に強さを増すため、ローターの揚力を大いに損じます。その結果、降下率は制御不可能なほど増大。機体は揚力を失って、墜落に至るのです。

「V-22」はVRSの危険性に対し、フライトマニュアルを改訂し、降下率を制限。さらに失速警報を追加することで、運用制限を行っています。これにより、リスクは回避され、機体の安全性は大いに改善されています。

ただ、こうしたご都合主義的な対処療法に違和感を感じる方もいるでしょう。根本的な原因が解決されていないじゃないか。こんなのただのゴマカシじゃないか。と感じるはずです。確かに、その通りです。「V-22」は、現在でも降下率制限を越えれば、あっという間に墜落する可能性があることには、何の変化もありません。しかし、VRSがダメというなら、世の中のヘリコプターは全て抹殺せねばなりません。VRSに陥らないヘリコプターなど、存在しないからです。

航空機を操縦するのは、高度な訓練を行ったパイロットだけです。機体特性を理解できないような人間は、操縦することは許されません。ですから、運用制限を課すだけで、充分安全性を確保することが出来るのです。現実に、「V-22」は現在では安定した運用を実現しています。

「V-22」は運用実績を反映し、今後も改良が進められていくことでしょう。それは、VTOL機が航空技術者なら誰しもが思い描く理想の機体だからです。現在、「V-22」の技術的成果を反映した民間機型の開発が進められています。アグスタウェストランド「AW609」は乗客9名を乗せ、巡航速度500km/h・航続距離1500kmを目標に開発が進められてます。

離島の多い我が国では、VTOL機はうってつけの存在です。近い将来、VTOL機は必ずしや身近な存在となることでしょう。その時、「V-22」の機体整備で得た知見を活かして、スバルが主導的に離島の課題解決に貢献することが期待されます。

 

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