スバルショップ三河安城の最新情報。スバリズムレポート第2弾「航空機はなぜ飛ぶのか?〜飛行機が飛ぶ原理とは〜」| 2018年12月29日更新
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失速のメカニズム。
過度の迎角や対気速度の低下によって生じる失速は、その形態によって分類されます。翼型によって失速形態が違うため、適切な翼型を選定して、制御しやすい飛行特性とせねばなりません。
翼の後縁から失速するものを後縁失速と呼びます。厚翼比0.15以上の厚翼で起こる現象で、後縁での乱流境界層の剥離が徐々に前方に移動しつつ、剥離領域が拡大していきます。揚力減少と抗力増加は、比較的緩やかです。
翼の前縁から失速するものを前縁失速と呼びます。前縁付近の小さな剥離―再付着が、前縁に向かって移動。突然にして一気に失速。揚力が急激に減少するとともに、圧力抵抗が急増します。
薄翼失速は、翼厚比0.09以下の薄翼で起こる失速です。小さな迎角で前縁付近で層流が剥離後、乱流化によってすぐに再付着する層流剥離泡が徐々に大きくなり、いずれ後縁に到達。失速します。一部では失速するものの、揚力は維持されながら失速していきます。
翼周りの循環が、翼端渦につながる。
ここまで、翼を2次元で見てきました。しかし、その様な翼は存在しません。翼の長さは有限で、翼端があるからです。
翼端では、上面より下面の方が圧力が高いため、空気は上に回り込もうとします。その結果発生するのが、翼端渦です。前方からの流れに翼端渦を重ねると、実質的に迎角を減らし、揚力と揚抗比を下げることになります。揚抗比を高くするには、翼幅を長くするしかありません。グライダーやU-2が、長大な主翼を持つのはそのためです。但し、翼幅には強度上制限が伴うため、代わりに翼端を上に曲げるのも有効です。ウイングレットと呼ばれるものがそれです。自動車用のリアウイングに備わる翼端板も同じ目的を持っています。
翼端渦は、理論的には切れること無く離陸滑走地点まで繋がっています。この翼端渦の影響を受けると、非常に危険です。飛行中に機体同士を近接させるには、非常に高い技量と慎重さが必要です。
翼端失速対策、それがねじり下げ。
主翼の翼端から失速が始まり、翼根に向かって拡大。最終的に翼全体が失速する現象を、翼端失速と呼びます。後退翼やテーパー翼等の翼端で翼弦長が短くなるタイプの翼で見られます。左右両翼が同時に失速した場合、頭下げに入ります。しかし、片翼が先に失速した場合は、危険なスピンに陥ります。
航空機にとってスピンは、非常に危険な現象です。片翼の揚力が失われ、抗力が激増するために、失速側を中心に意図しない回転運動が始まります。これが、スピンです。迎角が65~90度のスピンモードをフラットスピンと呼び、もっとも危険なスピンとされています。
翼端失速を防ぐには、主翼の取付角を翼端に向かって小さくしていく、ねじり下げが有効です。また、ドッグツースやストレーキ、ボーテックスジェネレーター等も有効です。
翼型の限界、それが臨界マッハ数。
ベイパーに包まれるF/A-18。翼面上で部分的に音速を超えることで生じる。
Ensign John Gay, U.S. Navy [Public domain], via Wikimedia Commons
第二次大戦を経て、航空機は急激な技術的発展を遂げています。布張りの複葉機から、金属製の単葉機へ。動力は、レシプロエンジンからジェットエンジンへ。最高速度は300km/h台から、音速一歩手前まで。高度は数百mから、成層圏まで。その能力は一気に発展を遂げたのです。
そこで問題となったのが、臨界マッハ数です。翼上面の流れは対気速度よりも加速されるため、亜音速域では部分的に音速を超えてしまうのです。この時の速度を、臨界マッハ数と呼びます。音速を超えると、翼上面に衝撃波が形成されます。莫大なエネルギーを浪費するため、衝撃波を形成するエネルギー分、抗力(造波抵抗という)が急増します。
航空工学を飛躍的に進歩させた、NACA翼型。
1:ゼロリフト線、2:前縁、3:前縁半径、4:最大翼厚、5:最大キャンバー、6:上面、7:後縁、8:中心線、9:下面
F l a n k e r [Public domain], via Wikimedia Commons
1930年代、翼理論が大きく発展し、精度高く流れを予測出来るようになると、NACA(NASAの前身)は翼型を詳しく解析し、体系的に分類を始めます。これが、NACA翼型です。
NACA翼型は風洞データを含め、広く一般に公開されています。コードナンバーが大凡の翼断面形状を表しており、設計者は要求に応じて適切な翼型を選定できるので、現在も多くの設計に用いられています。
ただ、先進的な航空機に於いては、既にNACA翼型を離れ、さらに効率の高い翼型を追求しています。
層流翼:翼全体を層流境界層で包め。
それまでの翼型は、抗力係数は極めて小さいものの最大揚力係数が低いのが大きな欠点でした。その欠点を克服するためにNACAは改良を続けたのが、NACAの6系と呼ばれる翼型です。
乱流境界層より層流境界層の方が摩擦抗力が小さいので、なるべく層流の部分を広くすれば、摩擦抗力を減じられると考えられたのです。乱流への遷移点を後縁まで下げ、翼全体を層流で包んで抗力を下げようというのです。
迎角が小さい場合、層流境界層は翼上下面の最小圧力点まで維持されます。乱流境界層へ遷移する位置を可能な限り後方に下げるため、それまで30%位置にあった最大翼厚位置が、翼弦の40~50%の位置に設定されているのが特徴です。
層流翼:僅かな凹凸も許されない。
[左]主翼と胴体前部に層流翼を適用することで、速度と燃費向上を図ったHondaJet。Sergey Ryabtsev [GFDL 1.2 or GFDL 1.2], via Wikimedia Commons
[右]大戦末期に帝国陸海軍機を圧倒したP-51は、長大な航続距離を誇る。USAAF/361st FG Association (via Al Richards) [Public domain], via Wikimedia Commons
大戦末期に一矢を報いる活躍を見せた、紫電改。
USAF [Public domain], via Wikimedia Commons
層流翼型は、翼表面を極めて滑らかにせねばならず、実現は難しいとされています。米国のP-51や紫電改等が知られていますが、当時の工作技術でそれが確実に実現するのは不可能だったと言われています。
HONDA Jetは削り出しによって、極めて精度高く主翼を製作。理想的な層流翼型を実現しています。また、層流翼型を機首部の形状にも適用。機体性能の向上を図っています。