スバルショップ三河安城の最新情報。新型レヴォーグ[VN型]特集:その3 シャシー・サスペンション系ドライビングインプレッション| 2020年12月17日更新

 
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文責:スバルショップ三河安城 和泉店

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担当:余語

 

ドライブモードセレクト:3.サスペンション

新型レヴォーグ ドライブモードセレクト 電子制御ダンパー

選択モードは、[Comfort][Normal][Sport]の3つ。[Comfort]では[Comfort]、[Normal]と[Sport]では[Normal]、[Sport+]では[Sport]が選択されます。

先述の通り、サスペンションセッティングには初代レヴォーグの反省が多分に含まれています。SIシャシーという古いプラットフォームをベースにせざるを得なかったため、300ps級に耐えるべく、徹底した補強を施していたのです。ただ、幾ら補強しても充分では無かったようで、足廻りを硬めに仕立てることで、スタビリティを確保していました。

ただ、そのセッティングはドライバーには頼もしくあったとしても、同乗者には苦痛以外の何物でも無かったのです。安心と愉しさというスバルのキーテーマからすれば、それは充分では無かったのです。

そこで、マイナーチェンジでは足廻りを緩める仕立てに直しつつ、機械式減衰力可変ダンパーをフロントに採用したSTI Sportをメインに据えることで、一応の解決を図ったのです。

[Comfort]は、社内では「奥様モード」と呼称され、滑らかかつストレス無い乗り心地を目指して開発されました。その狙い通り、そのフィーリングは実に滑らかです。主役を誰とするかによって、快適性の意味は全く違ってきます。このモードは、クルマに興味のない方には、間違いなく好評でしょう。スカイフック理論を地で行くように、路面のアンジュレーションに対しても常に安定を維持し、凹凸とは隔絶されたように滑らかな静粛を維持ます。勿論、その分インフォーメーションは希薄になりがちです。ただ、このモードは[Comfort]ですから、より明確なインフォーメーションを求めるのなら、[Normal]や[Sport]に変更すれば良いのです。

[Normal]は、最もバランスが良いモードかも知れません。適度な路面インフォメーションを感じさせつつ、乗り心地も充分滑らかです。ある程度のロールも許容するため、市街地走行等では寧ろタイミングが取りやすいかも知れません。ロールは元来ゼロがベスト、ではありません。ロールは、クルマの荷重移動とシャシー限界をイメージさせますから、これに応じた適度なロール角は寧ろあるべきです。[Normal]は、穏やかな市街地走行等では、CB18のキャラクターに良くマッチしていると思うのです。

[Sport]は、最もハードな仕立て。少なくとも、快適性の犠牲は致し方ありません。このモードでは、サスペンションの目的は快適性ではなく、タイヤの接地性確保に変わってしまうからです。勿論、だからと言って、タイヤとシャシーが直結されたような、乱雑なフィーリングではありません。タイヤは良く忠実に動き、路面を良くいなしてくれます。ただ、スタビリティを最優先としているため、路面の凹凸はしっかりと感じることが出来ます。つまり、スポーツドライビングに充分な路面インフォメーションが得られる、という事です。ただ、スタビリティが高いため、高速道路では寧ろ最も安心感が高いモードでもあります。

 

ドライブモードセレクト:4.AWD

新型レヴォーグ ドライブモードセレクト AWD
新型レヴォーグ ドライブモードセレクト 摩擦円
新型レヴォーグ ドライブモードセレクト AWDモードセレクト

選択モードは、[Normal][Individual]の2つ。[Comfort][Normal][Sport]では[Normal]、[Sport+]でのみ[Sport]が選択されます。

新型レヴォーグが採用した4輪駆動システムは、スバルでは最も一般的なアクティブトルクスプリットAWDと呼ばれるもの。センターデフにMP-T(マルチプレートトランスファー)に採用した電子制御AWDシステムで、走行状態に応じて前後輪に駆動力配分を制御します。基本的にはFFベースで、F:60:R:40というフロント寄りのトルク配分を基本にながら、常時リヤにトルクを伝達しているのが特徴です。FFを基本としたシステム故に、フロントのグリップが先に限界を超えるアンダー特性を持っています。

この点については、摩擦円を使って理解する必要があります。タイヤのグリップは、摩擦円を使って理解されます。摩擦円とは、タイヤのグリップ限界をベクトルを使って示すもので、合成力が円に接するとグリップを100%使い切っていることになります。

コーナー進入時はブレーキングで100%使い切り、ターンインするに従い徐々にブレーキを抜き、クリッピングポイント手前で最大のコーナリングフォースを得る。クリッピングポイントからは、アクセルを踏んでトラクションを掛けていき、グリップを100%使い切りながら加速していく。これが、レーシングドライブに於ける基本中の基本です。

摩擦円を使えば、100%のブレーキングをしながら、クルマを曲げることは決して出来ない、という事が理解できます。アクティブトルクスプリットAWDがアンダー特性を持つのは、フロントタイヤがブレーキング及びトラクションとコーナリングフォースの3つの仕事を負担せねばならないからです。逆に言えば、リヤのトルク配分及び重量配分を増やしてやれば、フロントの仕事の一部をリヤに負担させることができます。これにより、クルマ全体でのコーナリング限界が向上することとになります。

新型レヴォーグでは、アクティブトルクスプリットAWDの制御ロジックに改良を加え、駆動力を積極的にリヤに配分することでコーナリング限界の向上を図っています。アクセル開度から目標エンジン出力を想定。リヤへのトルク配分をより速いタイミングで増加できるように変更されているのです。勿論、STI Sportのみドライブモードセレクトで、この特性変更が可能です。

[Normal]モードでも、制御ロジックは新しいものに変わっています。より速いタイミングで、リヤへのトルク配分を増やすよう変更がなされています。ただ、アクセルON時のトルク変動はこれまでになく、大きめ。高いGを掛けて旋回中にアクセルを踏んでいくと、グワンとリヤへ駆動が掛かる不自然さが残っています。ただ、これまでのアクティブトルクスプリットAWDに比して、圧倒的にアンダーステアが改善されているのは、間違いありません。

[Sport]モードは、今回全く新たに設定された制御モードです。このモードでは、アクセルOFF時のリヤへの駆動配分を高めておくことで、アクセルON時のトルク変動を小さくしています。また、常時リヤのトルク配分を高めに維持しておくことで、コーナリング時の自由度を向上させています。その効果は目覚ましく、アクセルONでもオンザレール感覚で、ライントレースが可能です。

コーナリングのスムーズさを比較する限り、[Sport]が圧倒的に優れているように感じます。そのため、試乗中は常時[Individual]モードとして、AWDは[Sport]として使用することを常としていました。

 

ドライブモードセレクト:ベストモードはどれ?

新型レヴォーグ ドライブモードセレクト ディスプレイ
新型レヴォーグ ドライブモードセレクト 組み合わせ

ドライブモードセレクトを積極的に活用すると、より素晴らしい魅力を新型レヴォーグから引き出すことができます。やはりオススメは、6つのコンポーネントの制御を自由に組み合わせることができる[Individual]モードです。

その最大の要因は、何もプリセットモードの中身にある訳ではありません。100km以上を試乗してみた結果、走行する環境によって、そもそもモードの最適解が違ってくることを強く実感したからです。つまり、[Comfort][Normal][Sport][Sport+]のうち、「これがベストです。」という事でもないのです。

例えば、[Sport+]では、高速道路ではグッと重みのある操舵感が、高い直進安定性を想像させ、寧ろ高い安心感を得ることができます。ただ、一括りに高速道路と言っても、伊勢湾岸道では快適であっても、東名ではサスペンションが硬過ぎるようです。また、パワステが[Sport]となるため操舵力がかなり重めで、市街地では余りにも煩わしく感じます。パワーユニットが[S#]のため、燃費が嵩むのも難点です。

こうした場合、[Sport]を選択すると、パワステ、サスペンション、AWDは[Normal]になってしまいます。そんな時に、これはちょっと違うな、自分で自由に組み合わせたいな、と思ってしまうのです。

例えば、パワーユニットは[I]、パワステを[Normal]、サスペンションは[Comfort]、AWDを[Sport]、EyeSightは[Comfort]、エアコンは[Normal]。こんな組み合わせは、如何でしょう。ステアリングには程よい重さがありつつ、エンジンのトルクデリバリーは滑らかで、これに合うように乗り心地も滑らか。市街地や郊外路を走るのには、絶妙なマッチングです。

路面が極めてスムーズな新東名等を走るのであれば、パワーユニットを[S]、パワステを[Sport]、サスペンションも[Sport]、AWDも[Sport]、エアコンは[Normal]。けれど、ムダにEyeSightが加速するので、これは[Comfort]。kこんな組み合わせであれば、追い越しもスムーズですし、ステアリングにも重みがあり、サスペンションにもガッチリ感があって、安心感があります。もし、左側車線のみを巡航するのなら、パワーユニットは[I]でも良いかも知れません。

ただ、[Individual]モードでも、注意する点があります。それは、ステアリングとサスペンションのマッチングの問題です。サスペンションの[Comfort]に、パワステの[Sport]を組み合わせるなど、余りにかけ離れた両者を組み合わせると取り合わせが悪いのです。スッとヨーが立ち上がるのに、ロールが収まらない、という様に、挙動がチグハグになってしまいます。この点には、充分注意する必要があるでしょう。

 

2020―2021カー・オブ・ザ・イヤーを受賞。恐ろしい完成度を誇る、新型レヴォーグの魅力。

新型レヴォーグ フロント

新型レヴォーグは、相当に完成度の高いクルマです。カー・オブ・ザ・イヤー受賞さえも、さもありなん。そう思わせるほど、数多の最新技術が凝縮されており、まるでスバルの至宝のようでもあります。

しかし、新型レヴォーグが何よりも素晴らしいのは、虚仮威しの最新技術見本市としなかったことです。新型レヴォーグの主役は、アイサイトXでも、CB18でも、SGPでもなく、それを運転するドライバーと同乗者の方々なのです。この事を真芯に据えて、首尾一貫してスバル技術陣が開発に取り組んだことで、あらゆる最新技術でさえも完全に調和・調律されて、最高のフィーリングを醸し出しています。

幾ら話題の最新技術とは言え、一つの自動車という完成形から見れば、パズルの一つでしかない。すべては、より良いクルマづくりのためにある。古臭いかも知れないが、それこそがスバルのクルマ哲学だ。新型レヴォーグからは、そういう自動車エンジニアとしての悲壮な決意と固い信念が感じられるのです。

ハイブリッドではない新型車は、スバル史上最後となるのかも知れません。現在のように個人所有の自動車というものも、近い将来過去のものとなるのかも知れません。クルマという存在がインフラに成り下がる日が、間近に迫っているのかも知れません。少なくとも、味気ない自動車が巷を闊歩する未来が、すぐそこに迫っているのは間違いないのです。

そう思うとき、この新型レヴォーグは時代に抗う強烈なアンチテーゼであるとともに、だからこそ今ある全てを盛り込んだ「最期の一作」なのだろうとも考えさせられるのです。

2020年代は、自動車史上最大の転機となるであろうことは、間違いありません。間もなくやってくる、次の10年。それを終えたとき、自動車はその有り様を含め、その意味を、存在意義を大きく変えていることでしょう。2010年代に最後にスバルが放つ、渾身の一作を皆様も是非ご体感ください。

 

新型レヴォーグ 2020年10月

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photo by SUBARU
 

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