スバルショップ三河安城の最新情報。「技術ミーティング」から、スバルの長期戦略を分析する。| 2020年2月12日更新
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100年に一度の激変期。敢えて「変わらない」ことを選んだスバル。その戦略とは。
スバルは、2020年1月20日。報道関係者を対象に「SUBARU 技術ミーティング」を開催。2030年代へ向けた、技術分野における将来ビジョンを示しました。スバル社長中村知美氏は、この中で以下のようにコメントしています。
「100年に一度と言われる変革の時代においても、SUBARUが長年培ってきたクルマづくりに対する姿勢は変わりません。私たちは、その『SUBARUらしさ』をさらに磨き、お客様にとってSUBARUが“Different”な存在となることを目指します。同時に、地球環境保護をはじめとする社会的責任を果たすため、SUBARUは個性と技術革新によって、脱炭素社会の実現に貢献していきます。」
今回の将来ビジョンは、自動車分野に限られたもので、2030年代を短期的なゴールとしつつ、現在の経営路線を維持しつつ、間断なく技術革新を取り入れていく方針を示したものです。
スバルは100年に一度の激変期に際して、「変わる」ことを選ばず、敢えて「変わらぬ」ことを選んだのです。このスバルの選択は世界的に見れば、少数派でしょう。さて、その選択が吉とでるか、凶と出るか。それは、神のみぞ知る、といった処でしょうか。
トヨタグループ入りしたスバル。経営持続性を確保しつつ、自らの個性を磨き、差別化を図る。
スバルは、2020年2月6日。トヨタの株式保有割合が20%超に達したことと発表しました。これを機会に、スバルはトヨタの連結決算に組み込まれることとなります。
デンソー、アイシンでも25%弱に留まると聞けば、トヨタ傘下に入った印象がいよいよ強くなります。ただ、日野やダイハツとは違って、現時点ではトヨタ側からの取締役派遣や33%超までの株式取得は公表されておらず、あくまでもスバルの経営自主性は今後も維持されます。ただ、スバルの収益が、トヨタの連結決算に影響するとなれば、経営に対する影響を皆無とするのは、楽観的過ぎる見方でしょう。
相互の人事交流・技術の共用化は各分野に於いて盛んになることは確実です。重複する開発分野は整理統合され、コストダウンとグループ全体でのスリム化を図るはずです。特に、旧来技術は真っ先にその対象となります。例えば、スバルが自主開発・生産するリニアトロニックなどは、その筆頭に挙げられるでしょう。
この動きは、トヨタグループ各社にも波及するでしょう。トヨタの意向により、各種事業の他社移管及び整理統合が実施され、これに伴って生じる余力を投じて、CASE/MaaS分野に備えることになります。
スバルは、トヨタグループに自らを位置づけることで、経営持続性を確保しました。一方で、グループ内でのブランドの棲み分けは必須です。互いに商圏を食い合っては意味が無いからです。そのため、スバルは今後自らの個性をより強めていくことで、トヨタとの商圏の重なりを解消する方向に進むことになるでしょう。
基本を怠らず万事真面目を徹底する、スバルのクルマづくり。それは、笑顔をつくるため。
スバルは2025年ビジョンとして、「モノをつくる会社から、笑顔をつくる会社へ」というメッセージを示しています。
その骨子として、「Different」「お客様第一」「企業の社会的責任」の3つを挙げており、それは各々スバルのというブランドの存在意義であり、存在価値であり、存在理由を表現しています。つまり、「Different」はブランド戦略であり、「お客様第一」はブランドのあり方を表し、「企業の社会的責任」はスバルが成すべきものを示しています。
スバルのクルマづくりの根幹は、基本を怠らずに万事を「真面目」に徹底することにあります。
常時四輪駆動システムを、全モデルに展開している量販メーカーは、世界でもスバルが唯一です。価格帯に縛られず、全モデルに最新・最高ADAS(先進運転支援システム)を標準装備としているのも、スバルだけです。デザインコンシャスなモデルが一様に増加する中、視界確保を最前提にエクステリアをデザインするのも、世界でスバルだけです。歩行者保護エアバッグを全グレード標準装備としたのも、スバルが初めてです。
スバルは世界に誇るべき、「Different」なメーカーです。そして、それは「ユーザーを第一」に考えた上でのことです。さらに、スバルが貫くクルマ哲学は、自動車メーカーとして最低限果たすべき「社会的責任」を考えた上でのものなのです。
より愉しく・より安全なクルマを目指しつつ、脱炭素社会の実現へ貢献する。
笑顔には、様々な意味が内包されています。
古典的に言えば、走る愉しさでしょう。スバル車に乗り、自由気ままにドライブを愉しむ時、人は自然と笑顔になる。サーキットで、ワインディングで、アウトドアで、街で、家で。様々なフィールドでスバルに接する人が笑顔になる。そういうクルマを作り続ける。そうしたスバルの念持を示したものです。より個性を強めていく過程に於いて、相当の重要性を以てスバルは課題に取り組んでいくことになるでしょう。
続いては、安全です。クルマとは笑顔をつくるもの。しかし、実際には違います。これまで数多の人々がクルマの犠牲になり、今も世界に悲しみを増やし続けています。自動車メーカーには、これをゼロにする社会的責任と道義的責任があります。安全技術は、直近のスバルにとって最も重要な開発テーマとなっています。
一方、この2020年に於いて、自動車メーカーが「笑顔」とい言葉を使うからには、もっと広い意味があることを考える必要があります。それは、地球環境の持続性です。
将来に不安を覚えた時、人は笑顔を失います。子孫累々に至るまで、地球環境が健常であり続ける。そうした希望は、既に絶たれつつあります。現に、北極海には航路が開かれ、ホッキョクグマは住処を失いつつあるのです。この冬の異常さを目にして、笑顔がこぼれる人はいないはずです。自動車メーカーが成すべきは、持続可能な社会への貢献であり、脱炭素社会の実現です。ただ、それは夢や希望だけでは、決して成し得るものではありません。
スバルはお客様の笑顔をつくるために、より愉しく・より安全なクルマを目指しつつ、脱炭素社会の実現へ向けて貢献していくことになります。
Differentの根幹。それは、クルマ哲学が生み出す、ファンとの結び付きの深さにあった。
スバルは、ブランド戦略に関して「Different」という抽象的な言葉を用い、その骨子を「個性を磨き上げ、お客様にとってDifferentな存在になる。」と定義しています。この戦略は、文字通り「個性強化」を考えて良いでしょう。スバルというブランドの意味を強化・強調し、混乱を深める市場で存在感を増し、他ブランドとの差別化を図る。そうして、今後厳しさを増す自動車市場で生き残る。その決意を示す言葉、それが「Different」なのです。
ただ、Differentを達するには、その原点たる自らの個性の源泉を明らかにせねばなりません。そこでスバルが辿り着いた答えが、他メーカーにはない「お客様との結び付きの深さ」でした。
スバルとファンの特徴として、真っ先に挙げられるのは、互いの関係性でしょう。他ブランドのように崇め奉るのではなく、ファンが「叱咤激励」する対等な関係。そういう意味で、ファンとの結び付きの深さは特徴付けられるのかも知れません。スバルは、今後ファンイベント等を多用しつつ、もっとも親しまれるメーカーへと進化していくことでしょう。
さらに、スバルは結び付きの深さを育んだ背景に、自らが取り組んできた「真面目なクルマづくり」があるとしています。価格それなり、ではなく、やれるだけの事はやる。兎にも角にも基本を徹底するクルマづくり、それは確かにスバルの根幹を成すものでしょうし、それこそがファンに愛される所以なのかも知れません。
大戦末期にあっても、決して防弾装備を省かなかった、中島飛行機のDNA。
中島飛行機が手掛けた帝国陸軍一式戦闘機「隼」。同じ「栄」を搭載する零戦とは異なり、充分な防弾装備を搭載していた。
The original uploader was Vuvar1 at English Wikipedia., 25 October 2005 (original upload date) [Public domain]
スバルは、安全にこだわってきた技術史の原点を、「航空機メーカーとしてのDNA」にあるとしています。僅かな綻びでさえ、人命に直結する航空機。これに携わる企業であるならば、安全を第一とするのは当然のことです。
しかし、戦時下に於いても、中島飛行機技術陣が手掛けた航空機は安全を決して蔑ろにすることはありませんでした。それは、当時としては異質なものでした。
零式艦上戦闘機(零戦)は、海軍の無理難題(=要求性能)を実現するため、防弾装備を省略してまで空戦機動と航続性能を最優先としました。大戦初期こそ圧倒的な空戦性能を誇った零戦ですが、中盤以降は貧弱な防弾装備が米国に露見。敵機の半分に満たぬ発動機出力も相まって、決定的な劣勢となり、前途ある若人達が次々に散華していきます。しかし、その零戦の有り様は、敵の刃を恐れぬ侍精神を体現するものとして、海軍内で神格化されていきました。決死の覚悟での戦闘は、死を恐れぬ戦闘へと転じ、いつしか死を前提とした戦闘へと至ってしまうのです。
そんな最中にあっても、防弾装備を外すような暴挙を、中島飛行機は決して犯しませんでした。陸海軍の要求性能は、時に荒唐無稽・夢物語のようなものがあり、開発が思うように進まぬ発動機で要求性能に達するには、軽量化は最善かつ最良の選択でした。それでも、中島飛行機は常に安全に重きを置いて、航空機づくりをしていたのです。
ここにこそ、スバルの安全哲学の原点があるのです。
商機を逸し、流行に外れても、安全を決して疎かにしない。それが、スバルのクルマづくり。
スバルは、2030年までにスバル車が関わる死亡事故をゼロにすると宣言。笑顔をつくる会社になるため、スバルは安全技術に全力を投じる覚悟です。
スバルは、安全性能を4つに分類しています。第一は、0次安全と呼ぶ「運転のしやすさ」です。日常の起こり得るインシデントを最小限に抑制するとの観点から、最大限の視界及びシンプルな操作系を開発の基準に置いて設計を行っています。第二は、走行安全です。回避操作を間断なく正確に実行できるシャシー性能。そして、様々な路面状況でも確実な制動を実現するブレーキシステム。これは、スバルの走りの良さと両立するものです。第三は、アイサイトを含む予防安全です。事故の発生を予測し、先手を打って対応する。そして、ドライバーのエラーを補正し、インシデントの発生を抑制する。インシデントを事故に結び付けないための技術です。第四は、衝突安全です。空間設計は衝突後の生存スペース確保を最優先とし、あらゆるコンポーネントは衝突時の振る舞いを想定してパッケージングされています。
スバルが特筆されるのは、エクステリア/インテリアデザインを安全性を最優先に決定していることです。頭上に枝垂れかかるAピラーや、バッグドアに近接する3列目シートなどは、スバルでは決して許可されないのです。たとえ商機を失っても、たとえ流行にそぐわなくとも、スバルはお客様の安全を疎かにすることは決してありません。それこそがスバルのDNAであり、こだわりなのです。
戦時下にあっても、頑なに守られた鉄則は、今も確かにスバルに息づいているのです。