スバルショップ三河安城の最新情報。2023年ルマン24時間総括。トヨタの連勝記録途絶える。| 2023年7月23日更新
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女神が望んだのは、トヨタとフェラーリの一騎打ちか。
夜明け間近い12時間経過後、ルマンの女神がトヨタに微笑みます。天候が徐々に回復し始めたのです。以後、レースはドライで展開。ここに、2023年ルマンの第二章が幕を開けるのです。
ウェットで苦戦していたトヨタ8号車は、ドライコンディションで一気にペースアップ。トップを走るフェラーリ51号車に迫ると、これをパスしてトップに浮上。しかし、ドライバー交代が明暗を分けます。朝を迎えた頃、51号車がペースを上げるも、8号車は防戦一方。その差は、一気に縮まってしまいます。
初夏の朝日に包まれる頃、女神はフェラーリへ手を差し伸べつつありました。コーナーで周回遅れに前を塞がれる8号車に対し、51号車は幸運を武器にタイムロスなく、これをパス。遂にピタリと背後に迫ると、8号車を難なくパス。ペースに勝る51号車は、一気にリードを広げに掛かります。18時間経過した時点で、そのリードは約1分。51号車の優勢は、明らかでした。8号車が3分30秒台がやっとなのに対し、51号車は3分29秒台を連発。ジリジリとその差は開いていったのです。
ポテンシャルの差は、やはり1秒。それは、BoPのハンデで想定されたタイム差そのもの。拮抗する両陣営故に、テストデイ以来のその差を詰めることは不可能だったのです。もし、トヨタとフェラーリの間に13kgの差が無ければ、もっと熾烈な戦いを愉しむことができたはずです。今となっては、ACOの作為を恨むしかありません。
ところが、レース終盤。フェラーリ陣営に、最大のピンチが訪れます。ピット作業を終えた51号車が、リスタートに失敗。ピットに張り付いたまま、動かなくなったのです。チームは無線で、シャットダウン後の待機と再起動を指示。女神のいたずらによって、51号車は1分のリードを失い、8号車が再逆転に成功します。ピット作業は、まだ数回を残しています。まさかのクラッチトラブル?となると、次のピットアウトは・・・?
猛追も及ばず。トヨタを下し、フェラーリが総合優勝。
しかし、トヨタの幸運もここまで。51号車がペースを上げると、リードは再びフェラーリのものとなります。6連勝を賭けて絶対に諦めない姿勢の8号車は、ブレンドン・ハートレーが激走を見せて追い上げを図るも、リヤブレーキが徐々に悪化。変わったばかりの平川が、アルナージュでリヤをロックさせてクラッシュ。さすが歴戦の王者か、損傷の修復をピットレーン上で完了。最小限のタイムロスに抑えるも、両者の戦いはこれにて終戦。
24時間経過、フェラーリ・51号車は1965年以来となるトップチェッカー。68年ぶりの総合優勝を飾ります。トヨタ・8号車が81秒差の2位。キャデラック・2号車は、3位表彰台を獲得。これに続いたのは、キャデラック・3号車。5位は、トラブルを乗り越えたフェラーリ・50号車。6・7位は驚くことに、プライベータのグリッケンハウスの2台。非ハイブリッドのこの2台は、体制も予算もすべてが絶対的に不利な状況で見事に完走を果たし、ワークスを上回る上位を獲得したのです。グリッケンハウスのオペレーションを担うのは、歴戦のチーム・ヨースト。かなり規模を縮小したとは言え、その存在は侮ることはできません。
やはりと言うべきか。女神の思し召しか。残念なのは、優遇処置を受けた2メーカーの体たらく。プジョーは、93号車が8位となったものの12周遅れ。94号車は、30周遅れの27位がやっと。一方のポルシェは、5号車が16位でチェッカー。6号車は22周遅れの22位で、75号車はリタイヤ。38号車も完走ならず。そのファイナルラップは酷いもので、チェッカーを受けるために、5号車、93号車、94号車が次々ピットアウト。這々の体で1周しますが、5号車はファイナルラップの時間制限を超過して完走扱いとはならず・・・。ポルシェ、女神に完全に嫌われたのでしょう。この後、IMSA第5戦ワトキンス・グレンでトップチェッカーを受けるも、スキッドブロック違反で失格の裁定が下っています。しかも、その違反は1mm以下。きっと女神のご裁定に違いありません。
BoPが無くとも、熾烈なトップ争いは必至だったはず。
今回の51号車と8号車の戦いは極めて熾烈で、実に素晴らしいものでした。24時間走って、たった81秒という僅差の戦いは、そう毎度見れるものではありません。もし、終盤にもう1度セーフティカーが導入されてたら、、、結果は違っていたのかも知れません。ただ、幸運は明らかにフェラーリにあったようです。
ただ、幸運だけがフェラーリを勝たせた訳ではありません。フェラーリは、2021年に始まるF1の予算制限の影響により余剰となったリソースをフル活用して、499Pを開発しています。一方、オペレーションを担うAFコルセは、長年に渡ってフェラーリのGT活動を担い、近年はLMP2でも活動。その知見を蓄積してきました。F1由来の高い技術と、長きに渡る経験。双方をハイレベルで融合させたからこそ、499Pは初年度からトヨタに伍する高い完成度を実現できたのです。
一方、明らかな劣勢にも関わらず、持てる経験・知見を総動員して、たった81秒まで追い詰めたトヨタも、素晴らしい戦いぶりでした。終盤のクラッシュ時のリペアは、トヨタの真骨頂。彼らは何の迷いも躊躇いもなく、前後カウルのみを交換し、8号車を送り出しました。ここにこそ、彼らの恐ろしい強さの片鱗があります。アルナージュからピットまで、凡そ90秒。その間にすべてのパラメータをチェックを完了し、彼らは確信を以て作業をしています。トヨタは長年の経験から、あらゆるトラブルをシミュレーションし、その対応まで最適化を完了しているのです。
他のチームなら、ガレージに搬入後に前後カウルを外し、各部の目視チェックが不可欠だったはず。しかし、彼らはタイヤ交換の合間にカウル交換をするという、離れ業をしてみせました。ただ、それも事前に想定されていた作業だったのでしょう。メカニックは慌てる素振りもなく、ルーティンワークの如くカウル交換を完了させています。第3戦ポルティマオでも、トヨタはたった11分でドライブシャフト交換を完了させています。GR010は、ラップタイムだけでなく、リペア作業も速くなるよう、すべてが最適化されているのです。
トヨタがかつて、幾度となく完敗を喫したアウディ・チーム・ヨースト。GR010に備わる恐るべき強さは、すべて彼らから学んだもの。失敗と屈辱を糧に、トヨタは究極の強さを手に入れていたのです。
BoPバトルの舞台は、フェラーリの聖地モンツァへ。
5月31日に発表された、突然のBoPアップデート。それは明らかに余計でした。例えそれがが無くとも、両者の戦いは厳しく拮抗したはずです。折角の名勝負に水を差し、その価値を半減させたACO・FIAは、猛省をすべきです。その反省か、FIAは7月3付けでWEC後半戦へ向けたBoPアップデートを発表。フェラーリの最高出力削減と最低重量増加を決定しています。しかし、その内容は些か過剰なものに思えます。
フェラーリの地元凱旋となる第5戦モンツァでは、フェラーリ・499Pが最低重量:1069kg(+5kg※カッコ内はルマン比)、最大出力:497kW(ー12kW)、総エネルギー量:893MJ(ー8MJ)、トヨタ・GR010が最低重量:1080kg(±0kg)、最大出力:507kW(ー5kW)、総エネルギー量:908MJ(±0MJ)、プジョー・9X8は最低重量:1046kg(+4kg)、最大出力:520kW(+4kW)、総エネルギー量:914MJ(+6MJ)。キャデラック・V-Series.Rは最低重量:1032kg(ー14kg)、最大出力:498kW(ー15kW)、総エネルギー量:890MJ(ー15MJ)、ポルシェ・963は最低重量:1049kg(+1kg)、最大出力:506kW(ー10kW)、総エネルギー量:899MJ(ー11MJ)。
一見して分かる通り、その内容は499PとGR010の性能ギャップを縮めるもの。しかし、やや過剰だったのか、モンツァでは終始トヨタが優勢。好調の7号車が、終始50号車に対して有利にレースを進め、終盤には可夢偉がファステストを連発してリードを築くと、そのまま逃げ切ってルマンのリベンジを果たしています。
やはりと言うべきか、当然と言うべきか。地元凱旋に失敗したフェラーリは、後半戦BoPに対して強い不満を示しています。WECは、各サーキットの特性を前提に、各戦ごとに異なるBoPを適用し、性能調整を図っています。しかし、ここまで細かく調整するとなると、「レース結果はBoPのさじ加減次第」の感が強くなり、不公平感だけが残ってしまいます。このような事が続けば、遅かれ早かれ、嫌気が差したメーカーから撤退していくことでしょう。
2024年は、何と8メーカー。性能調整など不可能。
WECは2024年シーズンから、LMP2とLM-GTEを廃止し、HypercarとGT3の2本立てへ移行します。GT3は各メーカー2台のみの参戦とすることから、こちらも実質的にワークスからのエントリーとなるはずです。これまでプライベータを主体に牧歌的な雰囲気を漂わせていたWECは、一気にワークス同士の戦場へと姿を激変させることになります。
HypercarのBoPは、2010年代のLMP1の反省を元に制定されたもの。活動予算を安く抑えることで、参戦の障壁を下げるのが目的でした。結果的に、FIAの目論見は大成功。現状の5メーカーに、来年からBMW、アルピーヌ、ランボルギーニが加わる大繁盛ぶり。ただ、スペックが全く異なる8モデルの性能を均一化するのは、至難の業となるでしょう。
もし、今年のような恣意的なBoPアップデートが成されるのなら、前半戦に三味線を弾くメーカーが現れるのは間違いありません。なぜなら、ルマンでの獲得ポイントは2倍。ルマンでのポイント大量獲得が、シーズンを左右するのです。
であれば、第3戦までわざわざ2023年仕様で引っ張って、獲得ポイントを最小限とし、ルマンで2024年仕様を投入しつつ、優遇処置を得たままルマン入り。それが最も有効な手法となるでしょう。ただ、これでは場外乱闘、ロビー活動が左右する茶番劇です。
だからこそ、WECはレースごとのBoP調整をやめるべきです。調整に失敗すれば、それは筋書きありの茶番劇。そんなもの、見ていて面白いはずがありません。もし、再び今年のような失策を繰り返せば、一部メーカーのみならず、ファン全体の支持を失うことでしょう。
世界で最も偉大なる草レース。そう讃えられてきた、ルマン24時間。来年は如何なる戦いが繰り広げられるのでしょう。小生が、ルマンを初めて見たのは1991年。マツダ・787Bの奇跡的優勝が最初。以来、32年に渡って一度も逃すこと無く、24時間の戦いを見続けてきました。その中で一つだけ言えることは、奇跡的にうまくいくことは絶対にないということ。奇跡はあっても、奇跡は期待できない。それが、ルマンなのです。そして、その厳しさこそがルマンの醍醐味であり、その価値なのです。だからこそ来年こそは、そこに恣意的な作為のないことを願うばかりです。