家にいよう。特別企画 クラブ・スバリズム歴史発掘!技術的偉業10選 第5弾「信越本線碓氷峠」 [2020年04月23日更新]

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「家にいよう。」特別企画
 
    2020年4月23日 第5弾「信越本線 碓氷峠」

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文責:スバルショップ三河安城 和泉店

お問い合わせ:0566-92-6115

担当:余語

 

エンジニアなら知っておきたい。技術的偉業10選。

温故知新。古きを知り、新しきを知る。古きものには、様々な知見が内包されています。数多の失敗を重ね、多大な犠牲を払い、偉大な挑戦があって、モノは誕生します。しかし、その中には現代では全く見落とされてしまっているものも少なくありません。だからこそ、新しきを造る人々は、古きものを良く知る必要があるのです。

もちろん、高度に電子化されつつある現代技術と、20世紀の技術には大きな隔たりが存在します。自動車一つとって見ても、中身は全く似て非なるものへと進化を遂げています。

一方で、その本質は何も変わっていません。その本質を突き詰めて見ていく限りに於いては、技術に古いも新しいも無いのです。

ここに列挙したのは、小生が独断で選んだ、特筆すべき技術的偉業の数々です。もし、興味があれば、書籍をご購入の上で詳しく理解されることをお勧めします。

 

中山道随一の難所、碓氷峠に鉄道を。

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碓氷峠のハイライト、碓氷第三橋梁。日本最大の煉瓦造アーチ橋である。66.7‰もの急勾配のため、橋の前後で6mもの高低差がある。なお、66.7‰は高速道路では決して許可されない急勾配である。

 

カーキチに尋ねれば、「碓氷峠はハチロクの聖地」だと言い、鉄道ファンに尋ねれば、「横軽はロクサンの聖地」だと答えるでしょう。

天下の険、碓氷峠。麓の横川から軽井沢まで、直線距離たった10km。ところが、その高低差は555mに達します。横川からはひたすら登坂が続き、そのまま軽井沢に出る、完全なる片勾配が特徴です。そのため、トンネルで高低差を緩和するのは不可能。一直線に登坂しても勾配は5%に達する、それが碓氷峠を特別にしているのです。

古の時代から、碓氷峠は中山道随一の難所として知られ、その通行を阻んできました。横川には関所が置かれ、人の通行も厳しく管理してきました。

明治の世、日本に鉄道敷設の時代がやってきます。鉄道庁長官井上勝は、東西両京を結ぶ幹線鉄道敷設に際し、東海道は海路の便がある反面、中山道は運輸に不便であるとし、中山道に幹線鉄道を敷設すれば、広大な土地の開発を促せるだろうと結論します。

 

中山道幹線鉄道建設を阻む、碓氷峠。

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開通当時の高崎駅。現在の姿からは、全く想像がつかない。碓氷鉄道文化むらにて

明治5年、日本で初めて新橋横浜間に鉄道が開通。ところが、西南戦争の莫大な戦費が明治政府の財政を圧迫。それでも、井上は鉄道建設の必要性を強く訴え続けます。関西圏の鉄道建設は順調に進展。明治10年までに、京都神戸間が開通。明治13年には琵琶湖西岸まで到達し、長浜へ太湖汽船で結びました。明治16年には関ヶ原まで到達し、大垣までの建設が許可されます。

事ここに至り、東西両京を結ぶ幹線鉄道建設に着手すべしとの機運が高まります。明治16年、国家発展の背骨として中山道幹線の鉄道建設が廟議で決し、いよいよ建設に本格着手します。

ところが、東京での鉄道建設は完全に停滞します。政府予算が払底していたのです。そこで、上野高崎間及び上野青森間の鉄道建設は民間出資に委ねられ、明治16年に日本鐡道により漸く開通に至ります。高崎以西は、再び官設鉄道によるものとなり、明治18年には高崎横川間が開通。しかし、中山道幹線鉄道建設は再び停滞します。碓氷峠が、その前進を阻んだのです。

 

碓氷峠を克服するために選ばれたアブト式。

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碓氷鉄道文化むらに展示されている、アブト式軌道。2条のレール間に、3条のラックレールを敷設している。

急峻な山岳を横断する中山道と、広大河川を幾度も渡河する東海道。井上は、内々に再度建設費を比較検討させます。結果は明らかでした。中山道では建設費が1.5倍に達する上、開通後の所要時間も1.5倍に達したのです。井上は、盟友の総理大臣伊藤博文に意見書を提出。次いで、同じ長州閥の陸軍大臣山県有朋の内諾を得ると、幹線鉄道建設方針の大転換を決断します。

井上の意の通り、東海道幹線の建設は順調に進展。明治22年には、東京神戸間があっさり全通。遂に、東西両京が鉄道で接続されます。ただ、中山道幹線の東半分は、東京と日本海側を接続する幹線鉄道として建設が続行されます。明治21年には、直江津軽井沢間が開通。碓氷峠を残すのみとなります。

天下の険、碓氷峠への鉄道敷設は容易ではありません。ルート選定に際し、様々な案が比較検討されます。英国人技師パウネルは路線延長は遠大ながら、スルー運転が可能な1/40緩勾配案を強く推薦します。しかし、鉄道庁が選択したのは、当時ドイツで発明されたばかりの「アブト式」でした。

 

日本幹線鉄道に於ける、最大の難所が誕生。

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蒸気機関車を最後尾に、横川駅を出発する旅客列車。妙義山の山容が殊に厳しい。碓氷鉄道文化むらにて

ここに、再急勾配66.7‰、トンネル26箇所、橋梁17箇所という、日本鉄道史上最大の難所が誕生します。建設は急ピッチで進み、555名の犠牲を伴いつつ、たった1年9ヶ月で完成に至り、明治26年4月1日漸く開通に至ります。

アブト式は、2条のレールの中央にラックレールを敷設し、これに車両側のピニオンを噛み合わせることで、車輪の摩擦に依存することなく、急勾配の登坂を可能にするものです。碓氷峠では安全を期して、ラックレールは位相を120度ずつずらした3条を1セットとした方式が採用されました。

アブト式専用の蒸気機関車は、イギリス及びドイツからの輸入とされ、明治26年1月23日に試運転を開始します。ところが、試験は順調には進みません。それでも、習熟を繰り返すうちに営業運転が可能な水準に達します。

東京から横川に着いた列車は、アブト式機関車に付け替え、ゆっくりと峠を登っていきます。そして、軽井沢で再び機関車を付け替えて、長野に向かって走っていきました。

 

ばい煙の恐怖から逃れるために。日本初の電化。

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かわいい凸型車体のEC40形電気機関車が、貨物列車を牽引する。中間にもEC40形が見える。碓氷鉄道文化むらにて

開通後も問題は山積していました。蒸気機関車は、登坂時は常に全力運転のため、猛烈なばい煙を排出します。このばい煙による窒息事故が多発したのです。乗客は、トンネルの度にハンカチで口を覆い、橋梁では急いで換気せねばなりません。明治34年には、遂に死亡事故が発生。また、非力な蒸気機関車では輸送力が足りず、横川・軽井沢両駅には運び切れない貨車が滞留。東京と長野・新潟を結ぶ重要幹線として、状況は逼迫していました。

明治42年、鉄道院は遂に日本初の電化計画を決断。たった10kmに過ぎぬ碓氷峠は、全国に先駆けて電気運転が実施されることとなります。ところが、当時は電気事業黎明期。碓氷峠を電化するには、発電所から造る必要がありました。横川に発電所を建設、丸山、矢ヶ崎には変電所が設けられました。

鉄道院初の電気機関車10000形は、明治44年までに12両がドイツで製造され、横浜港に陸揚げされます。明治45年5月11日、遂に電気運転が開始されます。これを機会に、乗務員・乗客は漸くばい煙の恐怖から開放されたのです。

 

交通の隘路と化し、物流を阻害する碓氷峠。

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[左]66.7‰の勾配標識とED42形アブト式電気機関車。碓氷峠は電化区間だが架線はなく、車両左側の第三軌条から集電する。[右]粘着運転試験を行うEF63と、アブト式旧線を行くED42。

 

しかし、電気機関車の導入にも関わらず、根本的な問題は解決されぬままでした。高崎直江津間を結ぶ信越本線は、ほぼ複線化されていたものの、碓氷峠だけは依然単線であり、ここが交通の隘路となって物流を阻害していたのです。

昭和9年には、アブト式電気機関車の決定版たるED42形が誕生。しかし、戦後世情が安定しても、碓氷峠だけは状況に変わりはありませんでした。横川・軽井沢両駅には、大量の貨車が滞留。加えて、観光行楽シーズンの通過旅客が急激に増加、遂には乗客の荷重に耐えきれず、客車の床下を打ち付ける事故が続発するようになります。

明治期に建設された構造物では、到るところで亀裂が発生しており、改築しても延命の見込みはありません。その上、アブト式の軌道保守も難渋を極めていました。キモとなるラックレールは摩耗が激しく、その交換には多大な労苦を強いられたのです。

 

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