スバリズムレポート第2弾「航空機はなぜ飛ぶのか?〜飛行機が飛ぶ原理とは〜」 [2018年12月29日更新]

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担当:余語

 

遷音速翼:臨界マッハ数を限界まで高めろ。

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遷音速翼型であるリア・ローディング翼型を採用したエアバスA300B。
André Cros [CC BY-SA 4.0]

対気速度が遷音速域に達すると、部分的に音速を超えて、衝撃波が発生。造波抵抗が急増します。そこで、衝撃波の発生をより小さく滑らかにすることで、臨界マッハ数を高めようという翼型を、遷音速翼型と呼びます。

その実現には、翼厚を薄くするか、後退角を増やせば良いのですが、最大揚力は減少し、構造重量は増加してしまいます。

そこで考案されたのが、翼上面を平らにすることで超音速領域の加速を抑えて、衝撃波を弱め、抗力増加を緩やかにする翼型でした。飛行速度が同じであれば、後退角を弱め、翼厚を増やすことができます。また、構造重量を増やさずに、より大きなアスペクト比の主翼を実現できるので、誘導抵抗の軽減によってより高い燃費を実現できます。

 

ピーキー翼:衝撃波を弱めて抗力を下げる。

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ピーキー翼型は、1962年にイギリスのピアシーが提唱したものです。遷音速翼型の一種で、高速機用の翼型です。

一般に、マッハ0.8を超えると、翼表面では部分的に音速を超えて衝撃波が生じます。さらに、衝撃波の後方では、境界層が剥離します。

ピーキー翼型は衝撃波の発生を抑えるために、翼前縁の丸みを大きく取り、上面形状をなだらかにしています。翼上面の圧力分布曲線が前縁付近で急に立ち上がってピークを描くために、名付けられました。前縁付近の立ち上がりが大きいものをフロント・ローディング翼、後縁付近が大きいものをリア・ローディング翼と呼びます。臨界マッハ数が高まるため、後退角と翼厚比が同じならば、より高い巡航速度と低燃費を両立可能です。

エアバスA300Bでは、リア・ローディング翼を採用しています。

 

スーパークリティカル翼型:高速機用翼型。

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スーパークリティカル翼型は、NASAが中心となって開発した高速機用の翼型です。

前縁の丸みを大きく取るのはピーキー翼と同様ですが、翼上面を極めて平坦にしてあるのが特徴です。衝撃波の発生位置を後縁部まで下げることで、超音速領域を広げて、抗力の発生を緩やかにしています。この形状では、上面で発生する揚力が小さくなってしまいますが、下面の後縁付近の曲がりを強めることで揚力を稼いでいます。

スーパークリティカル翼型は、同じ翼厚比でも巡航マッハ数を15%程度増やせるとされています。最新の旅客機では、経済性が何よりも重視されます。特に重要な指標が、1座席当たりの燃料消費です。そのため、巡航マッハ数を維持しつつ、より低燃費で飛行できる翼型の研究が続いています。

 

超音速翼型:前縁も鋭く、翼厚も薄い。

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マッハ数の増加に伴って、翼上面の超音速領域は広がっていき、遂に前縁まで至ります。音速を超えると、前縁のさらに前方に弓状の強大な衝撃波面が形成されます。衝撃波の後方は亜音速に減速され、圧力と温度が高まっています。また、同時に後縁にも強力な衝撃波面が形成されます。これにより生じる造波抵抗は極めて大きく、このままでは音速を超えることはできません。

前縁の衝撃波を弱めるには、前縁半径を小さくする必要があります。前縁を鋭くしていくと、衝撃波は前縁で発生するようになります。前縁が鋭いほど、衝撃波の成す角度は小さくなり、翼厚が薄いほど造波抵抗も小さくなります。その角度は、マッハ角に比例して小さくなります。つまり、超音速翼型は前縁と後縁の双方が鋭い、前後対称に近い薄い翼型となるのです。

 

超音速翼型:迎角で揚力を作る。

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揚力を発生させるには、前縁が充分に丸く、後縁が鋭いのが条件でした。しかし、前縁が鋭い翼型だと循環がうまく成立せず、揚力が発生しないはずです。超音速翼型は、どのように揚力を発生させるのでしょうか。ダイヤモンド翼で考えてみましょう。

超音速領域に至ると、空気の圧縮性が及ぼす影響が極めて大きくなります。ダイヤモンド翼を超音速流内に置くと、前縁と後縁に衝撃波が形成されると共に、翼上下面のエッジ部で膨張波が生じます。衝撃波の後方は正圧ですが、膨張波の後方は負圧に転じます。

この翼に迎角を与えると、下面側の迎角が大きいため、上面より圧力が高まります。膨張波は上下同様ですから、その後方の負圧域も上面側が強くなります。つまり、超音速翼型は迎角を与えることで、初めて揚力が発生するのです。

 

アスペクト比を高めると、揚抗比が高まる。

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[右]:グライダーは高い滑空比を得るため、長大な主翼と高いアスペクト比を持つ。 Paul Hailday [Public domain], via Wikimedia Commons

 

迎角に対する、揚力係数と抗力係数の比を揚抗比と呼びます。揚抗比が高ければ、少ない抵抗で大きな揚力を得ることができます。

推力停止時の降下高度と滑空距離の比は、滑空比と呼びます。滑空比は、機体の空力効率を示す重要な指標ですが、それは揚抗比と等しくなります。そのため、グライダーのような航空機の主翼は、揚抗比の大きなものが採用されます。

所定の重量の飛翔体を飛ばすには、ある一定の翼面積が必要です。その翼面積を得るにあたっては、翼の縦横比は自在に設定できます。その縦横比は、機体の空力学的特性を大きく左右します。この縦横比をアスペクト比と呼び、翼幅と平均翼弦長の比で計算されます。

翼幅b、平均翼弦長をCm、翼面積をSと置くと、アスペクト比ARは次のように表されます。

 

アスペクト比が大きいほうが、翼端渦の影響を減らして誘導抵抗を減ずることができ、揚抗比は高くなります。しかし、翼幅が極端に大きいと慣性モーメントが過大となるため、運動性は低下します。

戦闘機や曲技機など運動性を重視する機体はアスペクト比は小さく設計され、グライダーや旅客機など揚抗比を重視する機体は大きなアスペクト比が与えられます。

 

上反角が横滑りからの復元力を生み出す。

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空気の流れは風洞と違って、常に乱れています。気圧や流速の乱れは外乱として、左右両翼の揚力や抗力を変動させます。例えば、右翼側の気圧が低下すれば、機体には右回りのロールモーメントが生じます。一旦機体が右に傾くと、揚力に右向きの成分が生じますので、機体は右下方にスライドしていきます。これを横滑りと呼びます。

これでは、気流の乱れの度に横滑りを起こすので、機体は安定して飛行できません。外乱に伴う挙動が自然収束するような静安定を与えねばなりません。

機体が右下方に横滑りを起こすと、左上向きの風を受けます。この風の上向き成分によって、左右主翼の迎角が減少します。

もし、機体が上半角を持つのであれば、左翼側がより多く迎角が減少します。すると、揚力は右翼>左翼となって、機体に復元力が作用します。また、後退角がある機体でも、横滑り側の後退角が見かけ上減少するため、上半角同様に復元力が働きます。

注意せねばらないのは、その復元力が過剰になると横滑りを周期的に繰り返すようになるということです。これは、ダッチロール現象として知られており、振幅が増大するような特性であれば、非常に危険です。それ故、後退角を持つ機体では、逆に下半角を与えられる場合があります。

当然ながら、運用される航空機は静的安定を有していますが、速度低下や上昇限度の超過、機体の損傷が生じるとこのような現象が現れて、時に重大な事態を引き起こします。

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[左]:低翼配置の主翼ゆえに、上反角を持つ海上自衛隊のP-1紹介機。海上自衛隊 [CC BY 4.0]
[右]:高翼配置の主翼に強い下半角がついた、航空自衛隊のC-2輸送機。Ronnie Macdonald from Chelmsford and Largs, United Kingdom [CC BY 2.0], ウィキメディア・コモンズ経由で

 

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