家にいよう。特別企画 クラブ・スバリズム歴史発掘!技術的偉業10選 第3弾「ポルシェ 956/962」 [2020年04月22日更新]
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エンジニアなら知っておきたい。技術的偉業10選。
温故知新。古きを知り、新しきを知る。古きものには、様々な知見が内包されています。数多の失敗を重ね、多大な犠牲を払い、偉大な挑戦があって、モノは誕生します。しかし、その中には現代では全く見落とされてしまっているものも少なくありません。だからこそ、新しきを造る人々は、古きものを良く知る必要があるのです。
もちろん、高度に電子化されつつある現代技術と、20世紀の技術には大きな隔たりが存在します。自動車一つとって見ても、中身は全く似て非なるものへと進化を遂げています。
一方で、その本質は何も変わっていません。その本質を突き詰めて見ていく限りに於いては、技術に古いも新しいも無いのです。
ここに列挙したのは、小生が独断で選んだ、特筆すべき技術的偉業の数々です。もし、興味があれば、書籍をご購入の上で詳しく理解されることをお勧めします。
最も完成されたレーシングカー、ポルシェ956。
ポルシェ史上、もっとも成功を収めた車両。それは、911でも、917でも、919Hybridでもなく、グループCカー956/962です。956/962は、同一設計マシンによるルマン6連勝という空前絶後の記録を打ち立てた他、ワークス、プライベータ含め100台以上が生産され、世界各地で数多の勝利を獲得。空前絶後の戦歴を誇る、史上屈指の名車です。
1982年6月19〜20日のルマン24時間で956が初優勝を飾った後、1994年8月14日の全日本GT選手権で962Cが最後の優勝(アンソニー・リード/近藤真彦)を飾るまで、12年間に渡って勝利を積み重ねており、レーシングカー史上956/962ほど長期に渡って成功を収めたマシンは他に類を見ません。
1982年に誕生した、史上初のグループCカーポルシェ・956。それは、史上最も完成されたグループCカーでもありました。最強のレーシングカーと聞けば、革命的な設計を想像します。しかし、その実は全く真逆。設計は手堅く、画期的なアイデアや意欲的な設計は、徹底的に排除されて開発された車両なのです。
世界を圧倒した、ポルシェ・ターボの威力。
ポルシェが、本格的にレース用ターボエンジン開発に着手したのは、1973年のこと。ルマン24時間に「911 Carrera RSR turbo」を実戦投入。エンジンはたった2.1Lの空冷フラット6ターボで、6:1の低圧縮比ながら1.35barで過給し、490psを確保。市販車然とした姿でありながら、プロトタイプを相手に総合2位を獲得してしまいます。
1976年には、911をベースに2.85Lターボを搭載したグループ5マシン「935」を開発。当時、モータスポーツは閑散期。ライバル不在を良いことに、935はプライベータの手に渡り、世界中のレースを席巻します。ポルシェはプライベータに広くターボマシンを供給できるほどに、ターボ技術を既に確立していたのです。
一方、ターボエンジンを開発していたルノー・アルピーヌは、初のターボ車によるF1制覇を最終目標に、ルマン制覇を第一目標として、2.0LV6ターボを搭載するA442を開発。1975年、スポーツカーレーシングに挑戦を開始します。
ポルシェvsルノー、史上初のターボ決戦。
ルノーとポルシェが初めて対峙した、1976年のルマン。ポルシェには1975年にヨーストの要請に応じて908/3ターボがあり、これをベースに開発を進めた936を1台準備。これに加えて、バックアップの935を持ち込めば充分と考えていました。ところが、935がテストでトラブルを続発。慌てたポルシェは、2台目のエントリーを強引にねじ込むと、何とか優勝を飾ります。
ポルシェのフラット6は、旧態依然とした空冷2バルブ。これに対し、ルノーは先進的な水冷4バルブ。ところが、高ブーストに耐えられるのは、空冷故に頑強なガスケットを持つポルシェの方でした。ポルシェが1.4barもの高ブーストでの運転可能だったのに対し、ルノーは0.85barと低めのブースト圧を回転数で補わざるを得ず、ドラブルを続発させたのです。
しかし、ルノーの懸命な開発により、懸案は次第に克服されていきます。こうなると、ポルシェの空冷2バルブは絶対性能で不利となります。1977年、ポルシェは辛くも優勝しますが、その牙城は崩されつつありました。
燃費で性能を規制する、グループCの誕生。
そこで、ポルシェは1978年の直接対決へ向け、ヘッドのみ水冷とした4バルブヘッドを開発。世にも珍妙な935/78を誕生させます。しかし、936/78はトラブルを続発。ルノーは悲願の優勝を果たし、2台の936/78は博物館行きとなります。
ルノーがF1に活動の場を移した後、ポルシェは2度続けてルマンで失敗。次の1981年、ポルシェは936/78を現役復帰させ、936/81としてルマンに投入します。実は、この936/81こそ、956のテストベッドなのです。
ターボエンジンであれば、圧倒的な出力を容易に実現可能でした。たった2Lでも、いとも容易く500ps以上を絞り出すことができたのです。しかし、天井知らずで進化するターボ技術は、同時に危険を孕んでいました。そこで、FIAは新たなスポーツカーカテゴリー「グループC」を誕生させます。グループC最大の特徴は、使用燃料規制。レース距離に応じて、使用燃料を制限。燃費を規制することで、出力を制限したのです。
高燃費・高出力・高信頼性レーシングターボ。
ポルシェ956に搭載された、935/76。Bill Abbott / CC BY-SA
高燃費+高出力+高信頼性。グループC規定は、経済性と環境性能を求められていた自動車メーカーにとって、格好の標的となります。スポーツカーレーシングの王者たるポルシェは、いち早くグループCカー開発に着手します。
エンジンは、935/78を2.65Lに仕立て直した935/76。水冷4バルブながら、基本は空冷という珍妙なエンジンです。935/76は7.1:1の圧縮比と1.4barの過給圧により、機械式インジェクションながら、680psを発揮。936/81に搭載され、1981年のルマンを制します。
FISAは、この1981年ルマンでの936/81の燃費を参考に、100km/60LをガイドラインのグループCの燃費規定を決定します。この燃費は、プライベータ向けのコスワースエンジンでは、いとも容易いものでした。しかし、ポルシェなくしてスポーツカーレーシングは成立しません。FISAはポルシェが完走可能、つまりターボが実現可能な燃費をルールとしたのです。
新技術の採用を回避して信頼性を得る。
1982年3月27日、ポルシェ956-001がバイザッハでシェイクダウンテストを実施します。
開発を率いたのは、ノルベルト・ジンガーでした。彼は、ポルシェは956を開発する際、新技術の採用を極端に回避しました。シャシーはオーソドックスなツインチューブアルミモノコックとし、背面に100Lの燃料タンクを内蔵。5度前傾させた935/76をマウントし、トランスミッションへ伸びる鋼管をサブフレームとし、ここにリヤウイングをマウントしました。ボディカウルは安価ながら、少々重たいFRPを採用しています。
この956が唯一画期的だったのは、ボディ上面ではなく、床面でダウンフォースを得ていたことです。モノコック後端以降の床板全体をディフューザーとすることで、1tを超えるダウンフォースを低ドラッグで実現していたのです。ただ、テスト初期には、冷却不足が深刻だったため、幾つかの修正が行われています。