スバルショップ三河安城の最新情報。EV戦略第2弾:インバータって何?e-TNGAの技術の真相に迫る。| 2019年6月26日更新

 
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文責:スバルショップ三河安城 和泉店

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担当:余語

 

e-TNGAの実像。6モデルのうち、5モデルは同じプラットフォームを共有か。

トヨタ新EVラインナップ

トヨタは他社と共同で次世代のEV開発に挑む。:トヨタグローバルニュースルームより

トヨタは6月7日の発表に於いて、2020年に発売される超小型EVとは別に、6種類のEVをラインナップすることを示しました。ラージSUV、ミディアムミニバン、ミディアムSUV、ミディアムセダン、ミディアムクロスオーバー、コンパクトの6種類です。これらの車種のうち、ミディアムSUVをスバルと、コンパクトをスズキ/ダイハツをパートナーとして共同開発。その後、製造・販売されることになります。

さて、これらモデルのボディサイズは、どのようなものになるのでしょうか。

まず、コンパクトがスズキ/ダイハツと共同開発となることから、そのサイズはBセグメントであろうことが想像されます。

一方、残りの5種は、「ミディアム」または「ラージ」とあるので、Dセグメント以上のサイズとなることが推察されます。となると、これらモデルのプラットフォームは基本的に同じもの、ということになります。

 

多様な拡張性を備えた、次世代EVプラットフォーム「e-TNGA」とは。

TOYOTA e-TNGA

モデルのサイズに合わせ、カスタマイズが可能。:トヨタグローバルニュースルームより

トヨタは、新たに開発されるEVプラットフォームを「e-TNGA」と読んでいます。現行プリウス以降に採用している、共通アーキテクチャ「TNGA」に擬えた呼称です。ただ、世代が「TNGA」であるだけで、両者に共通品があるようなことは無いでしょう。

e-TNGAと呼ばれるこのプラットフォームは、トヨタのプレゼンを見る限り、自由度の高い設計を備えて登場するようです。固定されているのは、フロントとリヤのアクスル最低幅、フロントアクスルとAピラー基部の構造、リヤ居室下のバッテリスペースのみ。よって、ホイールベースやトレッドは、自由に拡張が可能です。また、パワーコントロールユニットの搭載位置によって、駆動方式も自由に設定できます。

ホイールベースを延長すれば、電池搭載量を増やすことが可能で、OEMはクルマのキャラクターに応じて、航続距離と駆動方式を選択することが可能です。

つまり、e-TNGAが一つあれば、スポーツカーやSUVまで様々なモデルを開発できるということです。当然ながら、インプレッサから、フォレスター、アウトバック、アセントなど、スバルのラインナップを賄うことは、容易い御用でしょう。スバルは、自身のすべてのモデルに適用可能な、最新かつ最適なEVプラットフォームを手に入れたことになります。これは、スバルの経営健全性評価の向上に対して重要な一手となります。

 

駆動方式は自由。そのパフォーマンスに選択の自由度はあるのか。

e-TNGA パワーコントロールユニット

駆動形式を含め、様々なラインナップが予想されるパワートレイン。:トヨタグローバルニュースルームより

このEVプラットフォームの中核を成すのが、パワーコントロールユニットと呼ばれる駆動システムです。インバータと駆動用モータ、そしてドライブシャフト。これを一体にしたユニットをマウントで車両に固定します。

パワーコントロールユニットには、フロントアクスル用とリヤアクスル用があって、モデルのキャラクターに応じて、FFやFRなど駆動方式を任意に設定可能です。4WDを選択した場合、制御装置+モータのユニットを前後2つ搭載することになります。

ただ、各ユニットに内蔵するモータが2モータなのか、1モータのみなのか、変速機構を内蔵するのか、出力を自由に選択できるのか等々、詳細は現時点では不明です。EV時代のハイパフォーマンスモデルのレシピは、モータ数とバッテリ容量でほぼ決まりますから、そのバリエーションとラインナップは気になるところです。

トヨタであれば、レクサスブランド用にハイパフォーマンスバリエーションを求めるでしょうから、これを想定した高出力仕様が用意される可能性は高いでしょう。ただ、それがスバルで採用される可能性は高くないでしょう。フォレスターからターボモデルを抹殺したスバルの現経営陣ですから、そうした高出力版に興味を持つ可能性が低いと思われるのです。

トヨタ(とその仲間)の次世代を担うことになる、このパワーユニットの開発はトヨタ系新会社のBluE Nexusが担当し、製造はデンソーやアイシンAW等に振り分けて行われるでしょう。

トヨタは相次いで、新時代を担う系列子会社を設立しています。EV全体を統括するEV CA spirit、自動運転領域の先進開発を行うTOYOTA RESEARCH INSTITUTE、EV系パワートレインを担うBluE Nexusの他、自動運転領域のソフトウェア開発を担うJ-QuAD DYNAMICSです。これら新会社は次第に主導権を強めていくと思われわますが、既存の系列企業とどう棲み分けていくことになるのか注目されます。

 

EV基礎知識。そもそも、インバータって何?

PWM VFD Diagram

C J Cowie from en.wikipedia.org [CC BY-SA 3.0], ウィキメディア・コモンズ経由で

VVVFインバータ原理

サイリスタのスイッチングにより、疑似交流波形を生成する。

さて、EVの制御装置をなぜインバータと呼ぶのか、ご存知でしょうか?

現代的なEVは、効率の観点から交流モータ駆動を採用しています。交流モータを動力用に用いるには、直流電源のバッテリから任意の波形を持つ三相交流を生成して、トルクと回転数を制御します。この役目を果たすのが、インバータです。それゆえ、制御装置≒インバータなのです。

ただ、本来のインバータは直流を交流に変換する回路に過ぎません。交流モータの出力と回転数を制御するに際しては、任意の交流波形を作り出すために制御ユニットがインバータを制御しています。よって、インバータと呼ぶより、鉄道式に「制御装置」と呼ぶ方が適当でしょう。

単相のインバータは、2個のスイッチング素子で構成されます。この素子を逆相でオン/オフさせると、1→-1→1→-1のパルス波形が生成されます。このスイッチング周波数を変化させることで周波数を変化させ、オンの時間を変えることで電圧を制御しています。これをPWM(Pulse Width Modulation)方式と呼び、インバータの原理です。

実際には、1周波をさらに細かく刻みつつ、フィルタリアクトルを介することで、波形を滑らかにして正弦波形に近づける努力をしています。より高速でスイッチングできれば、キレイな正弦波に近づけることができ、その分の損失低減が可能なのです。そのため、より高速でスイッチング動作可能で、より低損失でスイッチング可能な半導体素子の開発が続けられています。

三相交流用のインバータは、120度位相をずらした単相インバータ3群で構成され、三相交流モータを制御します。電圧と周波数を制御するモータ制御を、可変電圧可変周波数(VVVF:Variable Voltage Variable Frequency)制御と呼び、その制御装置をVVVFインバータと呼んでいます。VVVFインバータは、鉄道やEVで交流モータの制御方式として幅広く用いられています。

 

なぜ、直流電源でわざわざ交流モータを駆動するのか?

交流モータのメリット
1.制御装置+モータともに構造が簡易なため軽量かつコンパクトなこと
2.分解整備が必要な箇所が少ないこと
3.回生電圧を制御できるため全速度域で回生ブレーキが使用できること
4.電圧・周波数を制御するため効率が高いこと
5.整流子がないため短絡事故が発生しない
直流モータの欠点
1.交流モータに比べて大型で重量が嵩むこと
2.整流子は分解整備が必須で技術と労力を要すること
3.電圧が周波数に比例して変化するため回生ブレーキを実用化しにくいこと
4.直流は電圧・電流を直接変換できないため制御に無駄が伴うこ
5.整流子の不良により短絡事故を起こす可能性があること
SiCによるインバータの小型化

[上] 半導体素子のフルSiC化により、大幅小型軽量化を実現。:日立論評より
[左] スイッチング周波数を高めて正弦波形に近づけ、損失を低減。:NEDOより

EVの電源はバッテリ、つまり直流電源です。にも関わらず、なぜ交流モータを使用するのでしょうか?それは、交流モータには右のように、これだけのメリットがあるからです。

鉄道向けのVVVFインバータの先行試験が始まったのは、1970年代末のこと。但し、その実用化には大容量でスイッチング周波数の高いGTOサイリスタの登場を待たねばなりませんでした。本格的実車試験は1980年代中頃にようやく始まり、80年代末にようやく実用化に漕ぎ着けます。

未来的な電子音と共に加速するVVVFインバータ車は爆発的に普及し、一躍時代の寵児となります。交流モータの全速度域で回生ブレーキが使用できる効果は絶大で、使用電力は何と半減。環境負荷低減に大きく貢献します。しかし、当時のGTOサイリスタは極めて高価で、いくつか試作車は登場したものの、自動車への応用は依然として現実的ではありませんでした。

1990年代後半になると、より高速スイッチング(GTO:500Hz→IGBT:2kHz)が可能なIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)が実用化され、さらに効率が高まっていきます。初代プリウスが実現できたのは、このIGBTによる低価格・高効率インバータが実用化されたためであり、現在のEVはこの世代の制御技術を自動車用に応用したものです。

鉄道車両のVVVFインバータは、今も進化し続けています。2015年には、半導体素子材料をSi(ケイ素)からSiC(炭化ケイ素)に置き換えた、SiC-MOSFETが登場。SiCは、数倍の高速スイッチング(IGBT:2kHz→SiC-MOSFET:100kHz)が可能で、高温での動作にも強いことから、60%という劇的な制御装置の小型軽量化と、40%近い省エネ化を同時に実現しています。SiC-MOSFETは一気に数を増やしており、将来的にはEVにも全面採用されることになるでしょう。

高調波損失
 

かご型三相誘導電動機と永久磁石同期電動機って、何?

DC motor

直流直巻電動機:中央の黄色部が回転子コイルで、その右側を陣取るのが整流子。
toshinori baba [Public domain], via Wikimedia Commons

Rotterdam Ahoy Europort 2011 (14)

誘導電動機:整流子がなく、回転子側にはコイルも存在しない、シンプルな構造。
S.J. de Waard [CC BY-SA 3.0], via Wikimedia Commons

かつて、鉄道車両の直流モータには、直巻整流子電動機や複巻整流子電動機が用いられてきました。その最大の弱点は整流子です。回転子磁界を反転させるためのもので、ブラシは摩耗するうえ、スパークが生じると焼損するため、常にメンテナンスが欠かせません。また、直流モータでは、電圧が回転数によって著しく変動するため、回転数制御を抵抗に頼っていた他、回生ブレーキに必須となる発電電圧の一定制御が不可能です。1970年代、これをチョッパ制御によってこれを克服する試みが行われたものの、その効率は依然として低いままであり、これが交流モータに移行する要因ともなりました。

現在、鉄道車両の駆動用に用いられる交流モータは、かご型三相誘導電動機(IM)もしくは永久磁石同期電動機(PMSM)の何れかです。

誘導電動機は、三相の固定子コイルが発生させる回転磁界によって、回転子コイル(導体)に電磁誘導が生じ、その電磁力によりトルクを得るものです。回転子は、回転磁界からすべりを伴って遅れて回転し、そのトルクはすべりに比例します。そのため、制御が比較的寛容で1制御器で複数モータの制御が可能な他、回転変動にも強いメリットがあります。また、回転子電流を得るに際して電磁誘導を頼るため、回転子側に電流を供給するための整流子が一切不要です。そのため、構造が簡易かつ軽量であると共に、メンテナンス箇所が少ない上、直流モータよりも高回転での使用が可能なため、より高い出力重量比が得られます。ただ、回転子電流による二次銅損の分、永久磁石同期電動機に効率で劣ります。

永久磁石同期電動機は、固定子コイルは同じですが、回転子側に強力な永久磁石を配することで、回転磁界に完全に同期して回転します。同期電動機は、同期がズレた際に制御不能となる「脱調」という現象を起こすので、不意の回転変動に抗する正確かつ緻密な制御が求められます。また、永久磁石の製造には、一定量のレアアースが必要であり、本格的EV時代が到来した際には原材料確保に問題が生じる可能性があります。ただ、二次銅損が一切なく、構造もより簡易なため、誘導電動機よりもさらに高い出力重量比を得ることができます。

鉄道車両では同期電動機は主流となりつつありますが、誘導電動機も効率向上により依然として製造が継続しています。一方、自動車に於いては、当初から永久磁石同期電動機が主流となっています。

 

電費と航続距離向上のカギ。それは、電力回生の効率向上。

EVの実用化・一般化に際して、航続距離すなわちバッテリばかりがクローズアップされる嫌いがあります。しかし、エンジンの進化が燃費向上の主眼であるように、EVに於いてもその経済性の進化には制御装置+モータの効率向上が欠かせません。特に、回生ブレーキの効率向上は最優先課題です。加速で消耗した電力を、減速でほぼ回収できれば、航続距離が飛躍的に高まるからです。現に、鉄道車両はこの30年間で、回生ブレーキの深度化によって電力使用量を60%以上削減しているのです。

回生ブレーキは、交流モータへの移行の契機となった根幹技術です。誘導電動機ではマイナスのすべりとなるよう回転磁界を制御することで、同期電動機は回転子側の自発的回転により、同じく発電機となります。発電された三相交流は、インバータを逆向きに通過することで直流に変換(つまり、コンバータ)されます。

現在、鉄道車両では純電気ブレーキと呼ばれる、機械式ブレーキを極力使用せず、回生ブレーキのみで停止させる制御を実用化しています。回生効率は依然として100%に至っていませんが、加速で使用した運動エネルギーの殆どを電気エネルギーとして回収可能です。ただ、HVやEVでは制動力の一貫性とリニアリティ確保のため、機械式ブレーキに依存する割合がかなり多く、回生効率の改善が今後進められていくことになるでしょう。

ただ、EVの場合、鉄道のような送電網に返せば良いのではなく、車載のバッテリに漏らさず充電せねばなりません。ゴムタイヤは転がり抵抗が大きい上、停止パターンも様々です。自動車は自重も軽いため、減速開始時の運動エネルギーが小さく、これを効率良く回収するのは難しい課題です。

ただ、HVと違って、EVでは常に電力は限られています。その「電力収支」を改善するには、駆動よりも回生が重要なのは明白です。今後は、機械式ブレーキに依存せずに停止できる回生ブレーキ(つまり、高効率の充電)の実現に向けて、研究が進められることでしょう。

 

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