スバリズムレポート第3弾「ステルス技術の全貌。」 [2019年01月25日更新]
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1981年、次世代戦闘機の開発へ向けて、ATF計画が始動。
F-22Aラプターの開発は1980年代に行われたが、未だ空対空戦闘でこれを凌駕する機体は存在しない。但し、エリア51内に存在する可能性は否定できない。
1981年、空軍はF-15の後継機に関する検討を開始します。
先進戦術戦闘機(ATF)と呼ばれたこの計画は、後に空前絶後の最強戦闘機F-22Aラプターとして結実することになります。
この機体を開発したロッキード・マーティンは、ジェット戦闘機を時代ごとに世代として分類。F-22Aを世界初の第5世代ジェット戦闘機と主張し、その優位性を強調しています。
1981年、F-15後継機として新たな戦闘機開発計画「ATF計画」が始動。
[左]1972年に初飛行した、F-15。半世紀近くを経過した現在でも、依然として第一線で空を護り続けている。その後継機開発は、1981年に始まっていた。出典:US AirForce
[右]兵装を満載した状態で飛行する、F-16。小型の機体ながらF-16は大量の兵装搭載が可能で、空対空戦闘から対地支援、レーダーサイト破壊など、あらゆる任務を遂行可能。出典:US AirForce
空母から発艦するF-14と、甲板上のF/A-18。ATF計画では当初、これら全ての機体を置き換える計画だった。出典:US NAVY
ATFの源流を辿っていくと、1969年に始まった空軍のTAC-85(1985年の戦術空軍研究)に至ります。
当初、次世代の戦闘機の主任務は対地攻撃になると考えられていましたが、圧倒的能力で航空支配する能力を与える方向に傾いていきます。こうして、ATFは対地攻撃から空対空戦闘までありとあらゆる任務をこなすマルチロール性を持つことになります。
1981年11月23日、マイルストーン・ゼロが承認され、ATF計画は正式にスタートします。
当初は、空軍・海軍すべての戦闘機をATFで置き換える計画でした。すなわち、F-15、F-16、F-14、F/A-18です。また、仮想敵が東側国家群に、情勢不安定な中東地域も加わったことで、長大な航続距離も要求性能に追加されています。
空前絶後の性能を目指す、ATFの要求性能。
低観測性と超音速巡航、超機動性を有する理想的な空対空プラットフォームを目指すことになります。
ATFの要求を満たすには、以下の技術的飛躍が必須でした。
1.大きな推力重量比を持つエンジン
2.超音速巡航能力
3.低観測性の要求を満たす兵器のサイズ・燃料・システム
4.兵器/航空機統合化
5.複合材の開発と使用
6.空対空火器管制装置を含む新型レーダ
7.低観測性環境で運用できるアビオニクスシステムとその統合
1982年12月、RFIの最終報告が公表され、ATFの主任務が決定します。さらに、1983年5月26日、低観測性を強化するRFIの改訂版が発行されます。これにより、情勢はXST計画を推進したロッキードとノースロップが一気に有利となります。
1983年、アルバート・ピッキリロ大佐を局長としたATFシステムプログラム局が発足。ATFは、F-15よりも圧倒的に安価で済む予定でした。ただ、この時点では最大年間72機、計750機の調達を計画しており、機体価格もこれを前提にしていました。
しかし、ソ連崩壊がATF計画に大きな影響を与えることになります。
1986年7月28日、残った5社は技術提案を提出。精査の結果、ロッキードとノースロップの2案が優秀とし、3社の脱落が決定します。しかし、ATF計画に投じられる650億ドルが1社総取りにならぬよう、共同作業化するよう要求します。その結果、ロッキードはボーイングとジェネラル・ダイナミクスと、ノースロップはマグダネル・ダグラスとチームを編成。ATFは、2チームの戦いになります。
XST計画に続き、再びスカンクワークスとノースロップが決戦に臨む。
2次元推力偏向ノズルと圧倒的なドライ推力を誇る、F-22A用ターボファンエンジンのF119-PW-100。出典:US AirForce
1968年10月31日、各チームはそれぞれ2機のプロトタイプ製造を受注します。ロッキードはYF-22を、ノースロップにはYF-23の正式名称が与えられました。このDem/Valはエンジンの選定も含んでいたため、2機はそれぞれジェネラル・ダイナミクス製のYF120-GE-100とプラット・アンド・ホイットニー製のYF119-PW-100と異なるエンジンを搭載しました。
Dem/Val段階で要求性能が変更され、短距離離着陸性能が除外されています。これを実現するスラストリバーサーが余りに他の性能に影響を与えてしまうのが理由でした。ロッキードは、ギリギリのタイミングで設計変更に成功しています。重量が軽減された他、排気口の構造が簡素化され、超音速巡航性能の向上に成功しています。一方、YF-23は元々の設計にこだわったため、変更は行われず、エンジンナセルは大きいまま製造されました。
ステルス性を備えた、極めてオーソドックスな戦闘機。それが、YF-22。
[左]ソロバン玉のような機首と、これに角度を合わせたエッジで構成されるYF-22。機首のエッジは、LREXの役割も果たす。Tech. Sgt. Bob Simons [Public domain], via Wikimedia Commons
[右]スカンクワークスの手による、YF-22。要求性能の変更にいち早く応じる柔軟さは、彼らの真骨頂。See page for author [Public domain], via Wikimedia Commons
ホームベース状の2枚のノズルベーンの作動により、スラストベクタリングを実現。失速領域での戦闘機動を可能にする。出典:US AirForce
YF-22は、F-117を上下逆さにしたような機体形状を持ち、広く大きな台形翼とスタンダードな垂直尾翼と水平尾翼を有しています。機体全体は、ステルス性に配慮してエッジを揃えた以外は、ほぼトラディショナルな戦闘機の形態を踏襲しています。ロッキード(スカンクワークス)が志向したのは、ステルス性を備えた第4世代戦闘機でした。
一方、ノースロップの開発したYF-23は、極めて滑らかな機体形状が特徴的です。また、垂直尾翼と水平尾翼を統合したV字翼は、抗力低減とステルス性向上に大きな意味があります。これらから、ノースロップはステルス性と超音速巡航に特化した、新時代の戦闘機を志向したことが伺えます。
高度なステルス性を実現するため、果敢にリスクにチャレンジした、YF-23。
[左]特徴的なV字翼と2次元ノズルが見える。YF-23は」スラストベクタリングを採用せず、機体下面の赤外線放射の削減を選んだ。U.S. Air Force [Public domain], via Wikimedia Commons
[右]極めてシンプルな平面形を持つ、YF-23。これだけでも、F-117AやYF-22より優れたRCSを持つであとうことが想像できる。U.S. Air Force [Public domain], via Wikimedia Commons
飛行する、2機のYF-23。尾翼はV字翼2枚のみとして、機動性を確保しつつ、RCS削減を図っている。大きなエンジンナセルが目立つ。
U.S. Air Force [Public domain], via Wikimedia Commons
YF-22とYF-23の大きな違いとして、スラスト・ベクタリングが挙げられます。
YF-22は、いくらかの重量増で大迎え角時の機体運動性向上と超音速時のピッチ率増加に効果がある、スラスト・ベクタリングを採用しています。
これまで円筒形だった排気口は、ホームベース状の2枚のベーンで置き換えられ、これを作動させることで推力方向を制御します。現在、このスラスト・ベクタリングは、空気密度が低下する高空での機動性確保に大いに役立っています。
一方、YF-23は機体後下方に対するステルス性向上と赤外線放射を減少するために、下側ノズルを固定した排気口を採用しました。
ここに両者の設計思想の違いを鑑みることができます。YF-23は新時代を担う戦闘機として、より斬新な設計を志向していました。一方のYF-22はステルス性以外は極めてオーソドックスな設計であり、より高い完成度と低リスクを目指したことが伺えます。
順調に試験を消化する、2つのATF。性能で優位に立ったYF-23と、完成度の高さが際立ったYF-22。
空対空ミサイルを試射する、YF-22。Dem/Valでは必須では無かったものの、YF-22の高い完成度はATF計画のリスク低減に繋がると評価された。
US Air Force [Public domain], via Wikimedia Commons
1990年8月27日、YF-23が初飛行。9月29日にはYF-22も初飛行を行っています。その後、両者とも2機目が加わって、飛行試験が進められていきました。
9月18日には、YF-23の2号機がマッハ1.6での超音速巡航に成功。12月18日まで続いたYF-23の試験飛行の中で、マッハ1.8の最大速度と最大到達高度50,000ftを達成しています。ただ、YF-23はミサイルの発射試験は行っていません。
一方、YF-22は超音速巡航の他、大迎え角時の飛行特性、短距離ミサイルと中距離ミサイルの発射試験も実施しています。また、空中給油を実施して、限られた試験期間を最大限有効活用しました。