スバリズムレポート第3弾「ステルス技術の全貌。」 [2019年01月25日更新]
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見えている側と、見えていない側。攻撃側を圧倒的優位にするのが、ステルス。
米海軍最新鋭のステルス駆逐艦ズムウォルト級。建造費が3500億円と高騰したため、3隻の建造で終了。後継は、何と旧型のアーレイ・バーク級の再生産で賄われることになった。出典:US NAVY
正式には低観測性(LO)と呼ばれる、ステルス性。一括りに言えば、敵に被探知されにくい技術と表現できます。ステルスと言っても、レーダに映らねば良いという単純なものではなく、探知する機材の種類に応じて、それぞれに対応するステルス技術が存在します。
ステルスは、多分に攻撃側に利する技術です。防空網は、確実にそこ存在するのですから隠れる意味がありません。空軍のステルスに対する熱心さと、海軍・陸軍とでは温度差があるのは、そのためです。
攻撃する側にとってみれば、相手に気づかれぬうちに攻撃位置に辿り着き、いち早く作戦を実行したい。一方、防衛する側にとってみれば、早期発見・早期撃破が基本です。攻撃位置に付かれる前に、先制攻撃を仕掛けたい。防衛側は、地上・海上・空中に強力なレーダを配して、接近する敵機の早期発見を目指します。
レーダは赤外線や光学センサーより分解能が高く、より遠方で正確に捕捉可能。そのため、地対空ミサイルはレーダ誘導が基本です。イージス艦のSPY-1レーダならば、周囲500kmの目標を探知できると言われており、攻撃側はこの強力な探知から逃れなければなりません。
ステルスとは、もっぱらレーダ探知から逃れる手法を指す。
レーダから発せられたレーダ波は、物体に反射。その時間で距離を算出する。
The original uploader was Averse at German Wikipedia.
[CC BY-SA 2.0 de], via Wikimedia Commons
移動物体の反射波は、周波数が変化する。これを重ね合わせれば、速度を算出できる。
Georg Wiora (Dr. Schorsch) [CC BY-SA 3.0], via Wikimedia Commons
防衛側の探知方法がもっぱらレーダを用いるため、ステルス≒電波ステルスとするのは、大方正しい見方です。今も昔も、航空機の最大の脅威が敵レーダであるがために、一般にステルス性といえば、電波に対するステルス性を指すのです。
発振器から照射されたレーダ波は、対象物体に当たって誘導電流が発生させます。この誘導電流から発生するのが、反射波です。この反射波がレーダの受信器に戻れば、被探知されます。
ステルスには二通りの方法があるとされています。特定の法則に則って機体形状を設計すれば、レーダ波は受信器に戻さずに住みます。これが、形状制御です。もう一つは、誘導電流の発生をさせない手法です。これは電波吸収体によって実現できます。
ステルスとは、レーダ波を吸収するのではなく、あらぬ方向へ反らす技術。
ノースロップが開発した、B-2Aステルス爆撃機。エッジの向きを細かく揃えることで、反射方向を局限。レーダの被探知を回避する。
Nova13 [Public domain], via Wikimedia Commons
ステルス機の特異な形状は、レーダ波の反射を考慮したものです。一般的に、レーダは送信器と受信器が一体となっているので、発信源に電波を戻さなければ、被探知されることはあり得ません。単純に言えば、発信源に正対する面をゼロにすれば良い、ということです。
レーダ波は、機体に対しほぼ水平に照射されます。すべての面を正対方向から斜めにずらして、レーダ波をあらぬ方向へ反らすことで被探知を防ぐのです。ステルス機の前縁がすべて鋭利なのは、そのためです。
初期のステルス機は平面で構成されていましたが、B-2以降は曲面でも同種の効果が得られるようになっています。これは、複雑な計算を処理するコンピュータの発展により実現したものです。
すべてのエッジの向きを揃えて、レーダ波の反射方向を局限する。
非ステルス機は、全方位にレーダ反射をするので容易にレーダでの探知が可能。ステルス機では、レーダ反射方向が局限されるため、レーダ発信源に達する時間はほんの一瞬でしかない。
ステルス機を三面図で見ると、エッジの角度が揃えられているのが分かります。これは、大きなレーダ反射を起こすエッジを揃えることで、反射方向を揃えるのが目的です。エッジが揃っていれば、レーダ反射は特定の方向にしか起こりません。
航空機とレーダは、相対運動によって常に角度が変化していきます。エッジが揃っていると、レーダに映るのは角度が一致した一瞬だけです。これで、レーダの追尾から逃れることができます。
こうした処理は、あらゆる箇所で行わねばなりません。F-117では、ネジが数mm飛び出しただけで、まったくステルス性が失われ、原因究明に苦労したエピソードが残っています。つまり、ほんの少しの誤差さえ電波は見逃さないということです。
盛大にレーダ波を反射する、コーナーリフレクター効果を潰せ。
直行する2平面に各々反射すると180度向きを変え、レーダ波は発信源に確実に戻る。
A-12では垂直尾翼を内側に傾斜させていました。これは、コーナーリフレクター効果を封じるための工夫です。以後、すべてのステルス機で傾斜した垂直尾翼を用いています。
コーナーリフレクターとは、二重反射によってレーダ波が180°向きを変える現象を利用したものです。例えば、レーダ波が垂直尾翼に照射されると、水平尾翼にもう一度当たって、発信源に戻してしまうのです。ステルス機では、極力凹凸を無くすか、慎重に各面の角度を設計する必要があります。
製造精度や整備レベルが低いと、些細な歪みやズレがコーナーリフレクターとなって、盛大なレーダ反射を起こす可能性があるので注意を要します。
なお、ステルス機が訓練飛行する際は、空中衝突の危険を避けるため、コーナーリフレクターを装備して自らの存在を意図的に晒しています。
依然として高度な機密に包まれたままの、電波吸収素材の技術。
[上]飛行中のF-35C。パネルのエッジに貼られた明るいグレーのRAMシールが目立つ。
[下]新造間もない、航空自衛隊向けF-35A。エッジのRAMシールが省略されている。
レーダ波吸収素材(RAM)は、A-12で用いられたアイアンボールに始まります。当時は、鉄粉とアスベストを混合していたため、色は漆黒。F-117Aも、漆黒のペイントで全身をコーティングしていました。
近年は、鈍い光沢を持つ灰色が一般的です。F-22Aを始め、各国の機体がこの色のRAMで塗られています。しかし、これは光学ステルスを意識したためのもの。現在では、様々な着色が可能だと言われていますが、情報が少ないため詳細は不明です。
RAMは万能ではありません。厚みと重量の制限があるため、効果を発揮するレーダ周波数帯が限られているのです。何よりもステルス性能を左右するのは、機体形状。「ステルスは1にも2にも形状。」との格言があるほどです。
RAMの最大の課題は、その維持です。飛行中に当たる水滴や埃、駐機中の紫外線や赤外線、雨や雪、鳥や虫も大敵です。ステルス機の運用コストが莫大なのは、RAMの再コーティングが原因だと言われています。
右上のF-35Cの写真を見ると、パネルのエッジ部分に貼られたRAMシールが目立ちます。これは、エッジ部分は特別にレーダ反射が多いために施されるもので、ステルス機は機体表面のパネルを1枚開ける度に、RAMコーティングをせねばならないのです。
一方、2018年12月以降に新造されたF-35では、RAMシールが省略されています。恐らく、新RAMが適用されたものと思われます。このように、RAMは現在も日進月歩の進化を続けており、今後も進化を続けていくものと思われます。
ステルス機は逆探知の恐れがあるため、自らのレーダを使用できない。
F-35の機種下面に設けられた、EOTS。赤外線とレーザで目標補足を行う。この他、赤外線を使用するEO-DASが設置されている。
ともにパッシブセンサーなので、レーダのように逆探知されてしまう可能性は極めて低い。
User:Dammit [CC BY-SA 2.5 nl], from Wikimedia Commons
戦闘機の空対空戦闘は、敵機にレーダ波を照射して捕捉し、ミサイルで攻撃を掛けるのが基本。
ところが、ステルス戦闘機が自らレーダ波を照射すれば、敵に逆探知されてしまいます。つまり、ステルス戦闘機は自らのレーダが使えない、ということになります。
そこで重要視されるのが、パッシブセンサーとデータリンクです。赤外線センサーや光学センサーは、使用しても相手に悟られることはありません。ただ、精度が低かったり、天候の影響を受けるのが欠点です。
これを補うのが、データリンクです。早期警戒機やイージス艦、軍事衛星等のデータを利用して、敵機を捕捉。自機のレーダ使用は極端に少なくして、攻撃を仕掛けることが可能です。